コラム

今こそ、ビジネスも個人の人生設計も、「超長期の視点」が重要になる

2021年01月06日(水)16時00分

2007年FOMA703i発表。当時、10年後にiモードが終了すると考えた人は少なかったかもしれない...... REUTERS/Toshiyuki Aizawa

<大きな時代の変曲点に立ち会うことになった今、超長期戦略で現在の事象を読み解き、未来をどのように俯瞰していくべきかについて語っていく...... 連載第一回>

2021年新しいニューノーマルの時代の幕開けだ。コロナ禍による様々な影響によって生じてしまった目の前の様々な変化も多数あるが、この変化の中にはゆっくりと起きていた不可逆の巨大な時代のうねりのようなものがあり、それが今回のCOVID-19をきっかけにし臨界点を超えて一気に加速した変化も多数存在する。

例えば、近代の工業化社会発展の中で労働力としてのブルーカラーが都市に集積し、朝から晩まで工場で労働に従事する慣習は工場がほぼ都会から郊外に移転してしまったいまでもホワイトカラーに習慣として残っていた。

しかし知的生産の仕事はもはやオンラインだけで可能であったことは自明の元に晒された。商品として価格設定されていたコンテンツやチケットを買う習慣となっていた音楽などエンタメ業界もアーティストの生活を支えるために能動的に自分が判断する価値をクラウドファンディングしたり投げ銭する中世のパトロネージュ(後援者、支援者)に回帰した。国内では150年ほど引きずってきた工業化社会の常識がここに来て一気に崩れようとしているのだ。

偶然にもこの大きな時代の変曲点に立ち会うことになった我々にとって今こそビジネスとしても個人の人生設計においても「超長期の視点」が重要になる。本連載は超長期戦略で現在の事象を読み解き、未来をどのように俯瞰していくべきかについて語っていきたいと考えている。

10年後には可能性の大きいビジネスの芽が大量に存在する現在

まず超長期で捉えなければいけない理由について考えてみたい。
多くの企業などで中期経営計画といえば3年スパンが標準である。しかし現在から3年後というのはとても中途半端な時間軸になる。例えば自動運転車やドローン配送はまだ3年後に普及しているかは怪しい。遺伝子解析の結果から自分に最適な料理を作ってくれるサービスや毎日トイレに行くだけで尿の成分を分析して健康状況を診断してくれるサービスも3年後にはまだ厳しいだろう。

しかしここに書いたサービス達はすで技術的には確立しているものばかりだ。しかし実用サービスにするためにはまだコスト改善や制度変更や社会的コンセンサスの確立などに時間がかかるものも多い。では3年ではなく10年で考えるとどうであろう。10年後にはこれらのサービスは日本のどこかの街ではすでに利益を追求するためのビジネスとして始まっていると考えることができるだろう。

今はこうした3年後には無理でも10年後には可能性の大きいビジネスの芽が大量に存在する。パンデミックや気象状況の変化、食糧危機など社会課題も続々出てくる中でAIやIoTやxRやロボティクスやバイオなど要素技術も百花繚乱な状況だ。それはまるでかつてカンブリア紀に地球上に大量の生物が一気に登場した「カンブリア大爆発」のような様相とも言えるだろう。カンブリア大爆発が先に見えているというこの状況では爆発が起こることを織り込んだ超長期視点が必要になることも理解していただけるのではないだろうか。

10年後の状況を想像し、そこから今やるべきことを考える

そしてもうひとつ「バックキャスティング」という考え方がとても重要になる。我々は日常の連続の先に未来を考えがちである。先ほども触れたように3年で考えるとますますそれは現在からの延長でしか考えられない。

多くの経営企画室の人はエクセルシートで12×3の36列を書いて現在から数字を変数を入れて成長させるような事業計画を立てることが多い。まさにこれは連続的な変化を前提にした作り方である。

fujimoto0105aa.jpg

しかし、これから訪れる未来は不連続の要素がとても多い。不連続であるなら計画の考え方を変えなければいけない。むしろ10年後の状況を想像し、そこから今やるべきことを考えるというアプローチが大事になるのだ。

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ビジネス

インフレ低下の確信「以前ほど強くない」、金利維持を

ワールド

EXCLUSIVE-米台の海軍、4月に非公表で合同

ビジネス

米4月PPI、前月比0.5%上昇と予想以上に加速 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story