コラム

グーグルAlphaGoとイ・セドル九段の対局、盛り上がりは人工知能のことだけではなかった

2016年03月23日(水)21時50分

戦いすんで 5戦を終えディープマインド社デミス・ハサビスCEO(左)に対局で使った碁盤にサインをして渡すイ・セドル九段 Kim Hong-Ji-REUTER/

 韓国ソウル市で人工知能と人間の囲碁対局が行われた。グーグルが買収したイギリスのディープマインド社が開発した人工知能「AlphaGo」と、挑戦的で創造的な囲碁をする世界トップレベルの棋士として有名なイ・セドル九段の対局は「世紀の対決」「歴史に残る対決」として韓国を沸かせた。12歳でプロ棋士になったイ・セドル九段は、子供のころから天才と呼ばれた棋士で、韓国で知らない人はいない有名人である。

 3月9日から10、12、13、15日の5回にわたって行われた対局で、「人類代表」のイ・セドル九段は1勝4敗、人工知能が勝利をおさめた。当初韓国では、イ・セドル九段が5勝全勝するだろうと誰もが信じていた。囲碁は人間が作ったもっとも複雑なゲームなので、人工知能は人間の知略を超えられないと考えたからだ。しかし対局が始まると、AlphaGoは人間ならこうはしないだろうという戦略で囲碁をし、勝利をおさめた。

 グーグルはこの対局の勝者に100万ドルの賞金を贈ることにしていた。賞金を獲得したグーグルディープマインドは、賞金を慈善団体に寄付した。複数の韓国メディアによると、グーグルの持ち株会社アルファベットの時価総額もうなぎのぼり。対局が行われた7日間、アルファベットの株価はA型とC型合わせて約489億ドル分(約5.9兆円)値上がりしたという。この対局でグーグル傘下にある人工知能の実力を見せつけたことが株価を押し上げたとみられる。ちなみに、アルファベットの株はA,B,C型の3つがあり、上場しているのはA型とC型である。B型はグーグルの初期立ち上げメンバーだけが保有する非上場株である。

 グーグルが囲碁をする人工知能を開発したのは、インターネット検索の機能向上のためと言われている。複数の韓国メディアによると、グーグルはユーザーが検索したキーワードからその後何を検索するか、どのような行動に出るか、10段階ほど先を読んで検索結果を表示するための研究をするため囲碁ができる人工知能に力を入れ、その結果AlphaGoが生まれたというのだ。イ・セドル九段が1勝したことで、グーグルはAlphaGoを改善できる余地を見つけた。これこそグーグルが望んでいたものではないだろうか。

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story