コラム

ソウルで年に1度空襲サイレンが鳴る理由は? 韓国版防災の日「ウルジ」

2017年09月01日(金)21時29分

韓国版防災の日「ウルジ」大韓民国行政安全部の広報ビデオより (c) 안전한TV / YouTube

<9月1日は防災の日。同じような訓練が韓国でも8月下旬に行われたが、日本とは比較にならないくらい大掛かりなものだ。その目的とは──>

8月23日午後2時、ソウル市内に突然空襲サイレンが鳴り一斉に車の通行が止まった。通行人も地下鉄の駅や建物の中に入り、人でごった返していたソウル中心部が突然静かになった。

この日は年に1度韓国全土で大々的に行われる「民防衛の日」であり、乙支(ウルジ)練習の日でもあった。どちらも国家の非常事態を想定して各種訓練を行い、国民の安保意識を高める日である。韓国の非常事態といえば北朝鮮の攻撃だが、最近は地震、洪水などの災害も含めた避難訓練を行っている。

乙支練習は毎年8月の終わり頃に行われ、一般市民はもちろん全省庁と自治体、軍、警察、教育機関、大手企業など、あらゆる組織が戦争といった緊急事態に備え、安保と安全のため何をどうすればいいのか点検する日である。

50回目を迎えた2017年の乙支練習は8月21日から24日までだった。日本の総務省のような役割をする行政安全部が主管、全国4000あまりの組織が参加した。"乙支"は高句麗時代に隋と闘って撃破した英雄である乙支文徳(ウルジ・ムンドク)将軍の名前からとったものだ。

毎年乙支練習に合わせて、韓国軍は米軍とUlchi-Freedom Guardian演習を行う。韓米連合司令部が主管する訓練で1953年の朝鮮戦争休戦後から毎年行われてきた。2017年は韓国軍5万人、米軍1万7500人が参加した。時代の変化に伴い、数年前からは重要インフラ設備に対するサイバーテロを食い止める演習、位置確認システム(GPS)電波を撹乱させる演習も行っている。
 
中央政府の乙支練習は、8月21日朝、青瓦台(大統領官邸)に民防衛服と呼ばれるおそろいのジャンパーを着た大統領と国務総理、長官、ソウル市長などが乙支国務会議に出席することから始まった。

北朝鮮が繰り返しミサイル発射実験を行い、韓米連合軍事練習に猛反発している中で行われた乙支国務会議だけに、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「乙支練習はわが国民の生命と安全を保護するための民・官・軍の防衛体制を点検するためである。固い韓米同盟を基盤に国際社会と協力して、現在の状況が戦争の危機に発展しないよう全力で尽くす。全政府関係者と軍は、どのような挑発にも対応できる万全な警戒体制を整えてほしい」と強調した。

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ

ビジネス

上海汽車とファーウェイが提携、「国際競争力のある」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story