コラム

Web3は大きな富を生み、その果実は広く分散されるようになる。その代償とは

2022年08月22日(月)13時35分

次に一般ユーザーが個人データをAIに提供するようになるのだろうか。今は、多くの人が自分のデータを他人に見られたくないと思っている。その考え方が、果たして変化するのだろうか。

個人的には、人々が自分のデータを進んでAIに提供するようになるには、万全なセキュリティ、インセンティブ、社会的意義の3つの要素が不可欠だと思う。

セキュリティーに関しては、 ビタリック・ブテリン氏らの論文に詳しい。Soul Bound Tokenや、ゼロ知識証明、ハッシュ関数、Garbled Circuits、Designated-verifier Proofなどといった技術を組み合わせることで、誰にどの程度の情報をどのくらいの時間の間に共有するのかを細かく設定できるようになると言う。

2つ目の要素であるインセンティブに関しては、やはり暗号通貨で報酬を支払うという方法だろう。One River Asset ManagementのEric Peter氏は、ブロックチェーンが過去最高に安全なデータ転送システムであることは、米国の金融当局の関係者でさえ認めるようになってきたと言う。問題は、ブロックチェーンが金融システムに取り込まれるようになるかどうかではなく、いつそうなるかだと言う。同氏は「20年後とか、そんな先の話ではないと思う」と語っている。

しかし暗号通貨をもらえるからといって、一般ユーザーが個人データをAIに提供するようになるのだろうか。

Web3に関心を持つ人たちの間で、ここ半年ほどで共通認識になったのが金銭的インセンティブがいかにパワフルであるのか、ということだ。ゲームをすれば暗号通貨を稼げる、運動すれば稼げるといったアプリが大流行したが、このことからも分かるように、金銭的インセンティブで行動変容する人は、意外に多いということが明らかになった。

3つ目の要素である社会的意義に関しては、データ提供で社会課題が解決されるという事例が増えて来れば、自らデータを提供したいという人が増えてくるのではないかと思っている。

一般ユーザーのデータ提供を促進する団体OpenMinedは、「もし地球上のほとんどの人がデータ提供に協力すれば、癌を撲滅できるかもしれない」と語っている。

癌にかかるかどうかは、生活習慣に左右されることが分かっている。何を食べて、どんな生活をすれば、癌にならなくてすむのか。そうした研究は続けられているが、被験者数が限られているためデータが少なく、まだまだ分からないことが多い。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ

ワールド

イタリアが包括的AI規制法承認、違法行為の罰則や子

ワールド

ソフトバンクG、格上げしたムーディーズに「公表の即
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story