コラム

精鋭集団でゾーンに入る、Netflixの究極の企業文化 新刊『No Rules Rules』レビュー

2020年09月25日(金)11時55分

『No Rules Rules』──ルールなき支配。Netflixの創業者Reed Hastingsと、フランスの名門ビジネススクールINSEAD のErin Meyer教授の共著で、Netflixの特異な企業文化を浮き彫りにする PENGUIN PRESS

<Netflixの成功の秘訣は超優秀な人材同士が互いに刺激し合い、切磋琢磨する企業文化に尽きる、と新著は明かす。優秀でも性格が悪い人や人格が未熟な人間が一人でもいれば全体の士気が下がるという>

エクサウィザーズ AI新聞(2020年9月16日付)から転載

企業経営は、山あり谷あり。今では飛ぶ鳥を落とす勢いのNetflixにも苦しい時期はあった。従業員の1/3をレイオフしなければならない事態に陥ったのだ。ところがこのレイオフは、経営者のReed Hastings氏をも驚かす結果になった。レイオフを終え、Netflixの組織は数段パワーアップしていたのだった。

2001年、過度の期待を集めたインターネットバブルが弾けた。Netflixは当時、映画のDVDを郵送で配達するビジネスモデルで、典型的なネット企業ではなかったのだが、赤字続きのNetflixに出資してくれる投資家は一人もいなくなり、急きょ経営難に陥ったのだった。

120人の従業員のうち40人には、辞めてもらうしかない。Hastings氏は苦しんだ。

創業間もないころから苦楽を共にしてきた仲間を、切り捨てなければならない。クビになる本人には当然つらい話だし、居残った人たちも仲間がクビになって嫌な気持ちになることは間違いない。チームワークは、ずたずたに切り裂かれるのではないか。同氏はそう考えると暗澹たる気持ちになったという。

3分の1をリストラしたら士気が上がった

1408861ea1053f909feef5d3092694bb55ee1892.pngところが2002年にDVDプレーヤーが人気のクリスマスプレゼントとなり、その影響でNetflixのDVD郵送サービスの売り上げも上がり始めた。これまで以上の量の業務を、これまでの2/3の従業員でこなさなければならない。

しかし残った80人の従業員は嬉々として働いた。仕事をするのが非常に楽しい様子で、ある従業員はその心情を「まるで恋している感じ」と形容した。

レイオフのおかげでNetflixは少数精鋭の組織となり、無駄のない組織で、力を出し切っていた。スポーツ選手がよく口にする「ゾーンに入った」状態になったわけだ。

これが成功する企業運営のコツ。Hastings氏はこのとき、このことに気づいたという。

超優秀な人材にとって、企業の魅力はきれいなオフィスでも、無料のランチでもない。自分と同じように超優秀で、協力的な仲間と一緒に仕事をすること。それ自体が、その企業の魅力であるべきだ。

超優秀な人材同士が刺激し合い、協力し合えば、会社全体の能力は一人一人の能力の和ではなく、指数関数的に向上する。

反対に中庸な能力の人材や、愚痴を言う人、性格が悪い人が、たった一人でもいれば、会社全体の能力は劇的に低下する。

それ以降、同社はトップレベルの人材を高給で雇用すると同時に、働いてもらったものの能力が中庸であったり、性格に問題があることが分かった人には、高額の退職金を支払って自主退社してもらうことにしているという。

Netflixの企業文化の1つ目のポイントは、超優秀な人材だけで組織を形成する、ということだ。これがすべての基本だという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米下院で民主党院内総務が過去最長演説、8時間46分

ビジネス

米サミットと英アストラが提携協議、150億ドル規模

ワールド

米減税法案、北極海の砕氷船に86億ドル割り当て

ビジネス

中国EV、30年まで財務持続可能なのは15ブランド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 8
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 9
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story