コラム

台湾のコロナ対策から学ぶ企業デジタル化のコツ

2020年06月09日(火)17時10分

迅速なコロナ対策で「優等生」と評価される台湾(写真は2月7日、衛生福利部疾病管制署の会見で状況を説明する蔡英文総統) Fabian Hamacher-REUTERS

<マスク買い占めを防ぐ在庫マップをはじめ、コロナ対策で突出した成果を挙げた台湾。迅速かつ広範な対応を可能にしたのは、日本政府に決定的に欠けていた、デジタル習熟度の高さだ>

エクサウィザーズ AI新聞(2020年5月27日付)から転載

日本でも緊急非常事態宣言が解除されるなど、新型コロナウイルス対策が新しい局面を迎えた。これまでの世界各国のコロナ対策を比較すると、その効果に明暗があることが分かる。中でも突出した効果を挙げて注目を集めたのが台湾だ。Withコロナ時代において日本の大多数の企業にとってデジタル化が不可欠になる中で、台湾の取り組みからは、いろいろと学ぶことが多そうだ。

Yukawa200609_1.jpg

株式会社エクサウィザーズ執行役員の大植択真氏の講演資料によると、台湾は初動が早かっただけではなく、徹底した取り組みで感染拡大阻止に成功したのだという。

具体的には、昨年12月31日の感染者0人の時点で人国検疫を強化。年が明けて1月11日には台湾で国内初の感染者発生というデマがSNS上に流れるや否や、政府としてそれを即座に否定。2月5日には中国からの入国を全面禁止し、2月6日にはマスク在庫マップを公開。パニックで買い占めが横行しないように工夫した。

Yukawa200609_2.jpg

政府の迅速なリーダーシップもさることながら、マスク在庫マップなどの詳細な情報を可能にしたのは、政府内のデジタル成熟度が高かったからだと、大植氏は指摘する。

台湾政府内のデジタル成熟度の向上に貢献しているのが、デジタル総括大臣のオードリー・タン氏(39)だ。学歴は中卒だが、19歳でシリコンバレーで起業した経験を持つ、IQ180の天才プログラマーだ。

デジタル総括大臣は各省庁の長より上の立場で、各省庁から70人の優秀な人材をデジタル総括省に出向させ、台湾政府を部門横断的に変革してきた。

「デジタルトランスフォーメーションには、おむすび型ではなくレーズンパン的な組織が不可欠」と大植氏は指摘する。おむすびの中の梅干しのようにデジタル人材を1カ所に集めるのではなく、レーズンパンのレーズンのように各部署の中に分散配置するほうが効果的で、台湾はまさにレーズンパン型だというわけだ。

またタン大臣は、1000人以上のメンバーを持つ技術者コミュニティーの中核メンバーでもある。今回のコロナ禍では、台湾でもマスクが品薄になって政府が購入制限を実施したものの、混乱が収まらなかった経緯がある。そこでタン大臣が台湾全土の店舗のマスク在庫状況データをリアルタイムで公開。それを受けて数日後には、技術者コミュニティーのメンバーらが各店舗のマスク在庫状況が一目で分かるアプリを次々と開発。この情報のおかげでパニックが、いくらかは抑えられたようだ。

このように台湾のコロナ対策が成功した理由には、①タン氏を起用するという思い切った人事②部門横断型の変革促進③外部開発チームの活用(オープンイノベーション)の3つの要素が大きく貢献していると大植氏は分析している。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉農相、自民総裁選出馬意向を地元に伝達 加藤財務

ビジネス

日銀には政府と連携し、物価目標達成へ適切な政策期待

ワールド

アングル:中国の「内巻」現象、過酷な価格競争に政府

ワールド

対ロ圧力強化、効果的措置検討しG7で協力すること重
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story