コラム

AIが進化するなら人間も進化しなきゃ──Transformative Technology Conferenceに行ってきた

2018年11月15日(木)14時00分

<メンタルとエモーショナル、サイコロジカルと、生理的欲求より高度な欲求を満たす技術の時代がやってきた>

エクサウィザーズ AI新聞から転載

11/9、11/10の両日、米シリコンバレーで開催されたTransformative Technology Conference に参加してきた。同カンファレンスの主催者によると、transformative technology とは、メンタルとエモーショナル、サイコロジカルな面において人間の進化を支援する技術のことらしい。簡単に言うと、不幸な人を幸せにし、幸せな人をさらに幸せにする技術ということになると思う。

心理学で有名なマズローの欲求5段階説で説明すると分かりやすい。人間の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階のピラミッドでできていて、人は衣食住に満足すると、人に認められたいという欲求や、好きな仕事で成功したいという欲求が出てくるという。それがマズローの欲求5段階説だ。

1115yukawa.jpgwww.transtechlab.org

同カンファレンスの主催者によると、これまでのテクノロジーは下の「生理的欲求」「安全欲求」の2段階を満たすためのものが中心だった。しかし最近では上の段階を満たすためのテクノロジーが増えてきており、上の段階を満たすテクノロジーのことをtransformative technologyと呼んでいるらしい。

おもしろいのは、「自己実現欲求」の上にもう一つ「自己超越欲求」という段階があることだ。主催者によると、マズローは欲求5段階で有名になったが、実は死の直前に「自己実現欲求の上に自己超越欲求がある」と主張していたらしい。自分の可能性の限りに生きることを自己実現とするならば、自己超越は自分の可能性を超えるということ。つまり、人間は自分の生まれ持った身体的条件をはるかに超えるパフォーマンスを出すことが可能だし、そうすることを望むようになる。マズローは最後にそう気づいたのだという。

同カンファレンスの主催者たちは、人間の精神の状態に応じて、異なるテクノロジーが適用されると考えている。①今既にうつ病やノイローゼなどの精神的な疾患を持っている人たちを支援するための技術。②精神疾患は持っていないが、社会や企業の中で他の人たちとうまくやっていくための技術。③そして社会でうまくやっている人たちが、さらに精神的能力を高めるための技術だ。③には、自己超越のための技術も入っているようだ。精神的能力の拡張とは、人間の器を大きくするというような意味なのだと思う。仏教で言えば、悟りの境地のようなものかもしれない。主催者の一人Jeffery Martin博士は、悟りのような精神状態のことをPersistent non-symbolic experience(PNSE)と呼び、長年この分野を研究しているそうだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ディズニー、第4四半期売上高は予想に届かず 26

ワールド

ウクライナ、いずれロシアとの交渉必要 「立場は日々

ビジネス

米経済「まちまち」、インフレ高すぎ 雇用に圧力=ミ

ワールド

EU通商担当、デミニミスの前倒し撤廃を提案 中国格
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story