コラム

次のAIフロンティアは自然言語処理?

2016年11月02日(水)17時00分

DigitalStorm-iStock.

<シリコンバレー出張スペシャル>第1回

 AI研究者にとっての次のフロンティアは自然言語処理技術(NLP)。人間の自然な会話をAIが理解できるようになり人間とAIの間の対話が成立すれば、新たな製品やサービスが山のように登場し、いろいろな業界の勢力図を塗り替える可能性があるといわれている。ただ研究者の間でも意見が分かれるのが、自然言語処理技術の完成の時期。30年たっても完成しないという予測もあれば、5年以内に完成するという予測もある。見通しの違いは、ビジネスチャンスにつながる。米シリコンバレー出張で耳にした意見を交え、NLPの未来を占ってみた。

5年で検索エンジンより10倍便利な仕組みができる

 日本経済新聞が米シリコンバレーで開催したイベントInnovation Forum "The Future of AI, Robots and Us"に参加してきた。スタンフォード大学AI研究所の元所長のAndrew Ng氏を始めトップレベルのAI研究者や起業家が登壇する豪華なイベントのトリを飾ったのが、カリフォルニア大学バークレー校のStuart Russell教授。爆弾発言は同教授の講演の中で飛び出した。

 同教授によると、画像認識技術は既に完成の域に達し、AIの研究者にとって次の課題は自然言語処理になったという。そしてその課題は早ければあと5年で解決する見通しだという。

 僕はこれまで30人近くのトップレベルの日米のAI研究者を取材してきたが、AIが人間の言語を完璧に理解できるようになるには、あと30年以上かかるという見通しが支配的な意見だった。それが5年で完成するとなれば、衝撃的な話だ。

 自然言語処理が完成の域に達すれば、翻訳の精度が上がり、チャットボットやロボットとの対話の精度も上がる。デジタル秘書の精度も向上するだろう。人間や社会のことを、AIはより正確に理解するようになるだろう。

 今なら何か質問があれば、関連するキーワードを検索エンジンに入力する。そうすることで、検索エンジンは、そのキーワードを含むウェブページの中で関連性が高そうなものから順にリストアップしてくれる。ユーザーはウェブページを上から順に読んで、質問に対する答えを自分で見つけなければならない。

 ところが自然言語処理が完成すれば、質問を入力すれば、直接答えが返ってくることになる。「検索エンジンよりも10倍便利になる」と同教授は指摘する。ネット業界の勢力図が塗り変わる可能性のある技術革新なわけだ。

【参考記事】女子高生AI「りんな」が世界を変えると思う理由

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story