コラム

「支える人を支えたい」慢性疾患の重症化予防ベンチャーに参画した研究者 小坂志保

2016年03月08日(火)17時10分

 経験知や習慣だけではなく、研究に基づいた根拠のあるデータを基にした支援「エビデンス・ベースト・プラクティス」を積極的に進めたいと思い、小坂氏は根本氏の事業にアドバイザーとして関わることに決めたのだという。

「特に塩分摂取量の長期間に渡るデータを取得して非対面式で介入している研究は、まだほとんどありません。高血圧がいろいろな病気の引き金になるということも分かってきている中、この事業で取得できるデータや知見が、今後の医療やヘルスケアの発展に大きく役立つのではないかと期待しています」。

 米国では大学の研究者がベンチャー企業に参画し、そこで得た大量の最新データをベースに「生きた学問」を大学で教えるケースが増えているが、日本ではまだまだ少数。産学の間に立ちはだかる壁が、日本の産業界、大学を足踏み状態にしていると言われる中で、小坂氏の挑戦は、非常に画期的なことだと言えるだろう。

自己効力感を高め、家族が一体に

 小坂氏はまた、日々の正確なデータは診療に役立つだけではなく、患者と家族にとっても励みになると指摘する。

「患者さんが生活習慣の改善に取り組めば取り組むほど、得られるデータが改善される。そうなれば自分の頑張りに意味を見いだせ、自己効力感が高まるんです」。

 最近の幸福学の研究によると、人が幸福を感じるためには、自分で自分の人生の舵を切ることができるという「自己効力感」が不可欠なのだという。

 そして患者を支える家族の「自己効力感」も、データの可視化で可能になる。

「病気は決していいトリガーではないですが、家族が同じ方向を向くきっかけになれるのではないかと思うんです」と小坂氏は言う。根本氏も「家族で父親のことを気にするようになってから、家族に仲間意識が芽生えたんです。父親の家族に対する態度も大分柔らかくなりましたし、僕も実家に帰ることが増えました」と言う。

【参考記事】お金はただあってもつまらない

 バラバラになりがちだった家族が患者を支えるという目的で再び1つになり、それぞれがそれぞれに合った役割を持つチームを構成していく。そのチームをまとめる力となるのが、患者の病気を克服するという共通の目的であり、その進捗具合を示すのがデータになるという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story