コラム

「支える人を支えたい」慢性疾患の重症化予防ベンチャーに参画した研究者 小坂志保

2016年03月08日(火)17時10分

yukawa160308-0202.jpg

エスケアの根本雅祥CEO(左)と小坂  写真:重本 典明

 2つ目の事業は、そうした減塩調理方法を実際に体験するクッキングサロン。減塩調理というと、単純に薄味にすることを思い浮かべがちだ。しかしこのクッキングサロンでは、素材本来の味を活かした体に優しい調理方法の習得を目的としているため、だし・薬味・香料・調味料などを効果的に活用し、減塩だけれども満足度の高い調理方法を学ぶことが出来るという。同社では、調理上手になることで結果的に減塩を達成することが理想のカタチと考えている。また、サロンは患者の家族間のコミュニケーションの場、同じ悩みを抱えた者同士の語らいの場にもなっている。

 3つ目の事業は、減塩にこだわった食材の配送。現在準備中で、先ずは常備菜の配送を考えているという。一般の家庭においても、調理をする人にとって毎日の献立を考えることは非常に悩ましい問題。その上、塩分量も考慮する必要があるとなると、その大変さは想像に固くない。その負担を軽くしようとするのがこのサービスだ。常備菜はもちろん単品でも食べられるし、2つ以上の常備菜を重ねたり調味料を足すことで全く違った料理にもなるという。

データが変える医療、ヘルスケア

 さて、そのコーチングに不可欠なのがデータ。摂取塩分量、血圧、体重、血液などのデータを集めて、個々人に合ったコーチングを提供していくのだという。塩分量はスマートフォンで食事の写真を送ってもらって管理栄養士などが推測する一方で、朝の尿の中の塩分量も測定し対象者の実際の摂取塩分量を確認する。血圧は、オンラインにつながった血圧計を利用する。

 これらによって対象者・サービス提供者双方にデータの見える化が可能となる。この共有されたデータを基に日々の食生活のアドバイスが得られるコーチングシステムは、日々の生活の安心につながる。今後このシステムを利用して腎疾患患者の自己管理を促進し、減塩から腎疾患の重症化予防を目指す研究を進めていく予定だ。

【参考記事】抗酸化物質は癌に逆効果?

「慢性疾患支援では、患者さんの日々の生活が大事なんです。自分のからだに興味を持つというところからセルフマネジメント(自己管理)は始まります」と小坂氏は指摘する。スマートフォンや、オンラインにつながった検査機器の普及で、患者の日々のデータの取得が可能になり、病気の現状がより正確に把握できるようになるのだという。

「家庭で測定した血圧値を記載した血圧手帳を外来に持ってきていただきますが、患者さんは薬を増やしたくないので、お医者さんにはいい値しか報告しない人もいらっしゃいます」と小坂氏はいう。また実際に医者の前では、緊張して血圧が上昇する傾向も確認されている。「白衣高血圧という名称で呼ばれています。なので診察室で取得するデータよりも、患者さんが自然体で測定された家庭血圧を重視するガイドラインに変わってきています」。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story