コラム

元Googleの大物研究者がリクルートのAI研究トップに就任する意味

2015年11月05日(木)16時51分

 確かにリクルートは、人材紹介を始め、グルメ、ウエディング、旅行、住宅など、ありとあらゆる領域のユーザー行動データを持っている。Googleでさえ持っていないデータを山のように持っている。AIを使って行動データを解析したい研究者にとっては、リクルートが宝の山のように見えるのかもしれない。

 カーネギーメロン大学のTom Mitchell教授も「リクルートはすごくいい立ち位置にいる」と絶賛する。「機械学習にうってつけのデータを大量に持っている。これらのデータを使ってレコメンデーションやマッチングを大きく進化させることが可能。AIでユーザーの幸福に大きなメリットを提供できるだろう」と語っている。

 Halevy氏も、リクルートの持つデータに魅了されたのだろうか。取材する機会があれば、ぜひ聞いてみたいと思う。

研究成果を本業に反映できるか

 Halevy氏をトップに起用することに成功したことで、リクルートのAI研究所が世界のトップレベルと肩を並べる研究所になる道筋はできた。5人のアドバイザーの顔ぶれもすばらしいし、若手研究者の採用も問題なく進むのではないかと思われる。

 企業のAI研究所としては、Google、Facebook、Amazon、Microsoft、それにバイドゥが有力視されている。他社とは異なるタイプのデータをリクルートが持っていることもあり、リクルートのAI研究所は、企業によるAI研究の重要な一角を占めるようになるかもしれない。

 しかし重要なのは、リクルートのAI研究所がリクルート本体とどれだけ密接に連携できるか、ということだ。

 研究所がどれだけ画期的な研究成果を出したとしても、それがリクルートの事業に反映されないのであれば意味がない。日本とシリコンバレーという物理的、文化的な距離、言語の壁を乗り越えることができるかどうかが課題だと思う。

 その点、Halevy氏は、10年間のGoogle研究所勤務で、研究所と本社の協業の仕方については十分に経験があるようだ。同氏のブログ記事を読むと、大学の研究所と企業の研究所では研究の仕方や目的がまったく異なることや、本社の従業員との密なコミュニケーションが重要であるというような指摘があった。Halevy氏がトップなら、研究所はリクルートの事業部門に寄り添った形で研究を続けることだろうと思う。

 ただHalevy氏がこれまで寄り添ってきたのはGoogleだ。世界で最もAIを重要視している企業だ。直近の決算発表でもGoogleのCEOのSundar Pichai氏は、AIが同社の最重要テーマで「すべての製品にAIを投入すべく、すべての製品を一から再構築する過程にある」と明言している。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story