コラム

元Googleの大物研究者がリクルートのAI研究トップに就任する意味

2015年11月05日(木)16時51分

 研究者の相対的な評価を現す指数としてhインデックスと呼ばれるものがある。論文を何本書いたか、その論文がほかの研究者の論文に何回引用されたか、などという数字を元に算出される指数だ。

 このhインデックスで、Halevy氏は94という高得点を示している。ちなみにバイドゥのNg氏も94、FacebookのAI研究所のYann LeCun氏は74、産総研の人工知能研究センター長の辻井潤一氏は51、AI関連で最近メディア露出が増えている東京大学の松尾豊氏は31となっている。Halevy氏がどれほどすごい研究者かが分かるだろう。

 AI研究の分野でここまで評価されている研究者がトップになったのだから、バイドゥの研究所同様に、優秀な若手研究者がリクルートのAI研究所に集まってくる可能性は十分にある。

 だが、どうしてHalevy氏は、GoogleというAI研究のトップ企業を辞めてまで、世界的にはそれほど知名度がない日本企業にフルタイムで働こうと思ったのだろうか。

リクルートが持つデータに魅了される研究者たち

 Halevy氏がリクルートに移籍する本当の理由は、同氏を取材したことがないので分からない。

 ただリクルートは今年4月にも、AI分野の著名米国人研究者5人とアドバイザー契約を結んでいる。彼らはなぜ世界的には知名度がないリクルートのアドバイザーになったのだろうか。リクルートの何が、彼らを惹きつけたのか。

 5人のうちの3人と取材する機会に恵まれたので、その辺りの話を聞いてみた。

 もちろんそれぞれに温度差はあって「いや、頼まれたからなっただけ」という人もいた。しかしコロンビア大学のDavid Blei教授は、「またとない機会と思って飛びついた」と、その理由を熱く語ってくれた。

 同教授は、文書が何について書かれているのかを判別するトピックモデリングと呼ばれる機械学習の手法の第一人者。過去10年間この手法の研究に没頭してきたが、今は文書の文字列以外のデータ、例えばその文書を読んだ人がその後、どのような文書にアクセスしたかというようなユーザー行動データと、合わせて解析することに最も関心があるという。行動データと合わせることで、文書の内容がよりよく判別できるからだ。

 同教授によると、リクルートは、いろいろな領域のユーザー行動データを持つ珍しいタイプの大手企業だという。同教授が企業のアドバイザーになるのは、教え子の2,3のベンチャー企業のアドバイザーになったことを除けば、初めてのことらしい。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story