コラム

米中の太平洋東西分割で、日本が「中国ヤマト自治区」になる日

2017年11月25日(土)15時30分

ASEANとの結束を示すトランプ米大統領(フィリピンの首都マニラ) REUTERS

<もはや「ナイフ」ではない朝鮮半島に真の危機はない。米主導のインド太平洋戦略に韓国が無視を決め込み理由とは>

11月5~14日、トランプ米大統領がアジアを歴訪した。日本では北朝鮮危機が強調されるなか、国際的に注目されたのは「インド太平洋戦略」だった。

これはトランプ米大統領が10日、ベトナム中部のダナンで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で提唱したもの。アメリカやオーストラリア、日本など民主主義的価値観を共有する諸国が中心となって連携を強化する戦略だ。トランプの手による原稿と思えないほどの出来栄えが、かえって米政権の熟議を経たことをうかがわせる。

日本での議論とは裏腹に、21世紀の地球規模の脅威は極東の小さな朝鮮半島でなく、東シナ海と南シナ海に潜む。新戦略はこうした地域で中国の現実的な脅威を取り除く可能性を帯びている。既に南シナ海に浮かぶ島々は軍事要塞となった。

サンゴ礁を埋め立てて戦闘機の滑走路を整備し、「航行の自由」作戦の米艦を迎え撃つミサイル網も配備。中国がその気になれば、マラッカ海峡と日本を結ぶシーレーン(海上交通路)を封鎖できるようになりつつある。

さらに東シナ海で日本が沖縄県尖閣諸島を失い、台湾が中国に「解放」されたら、中国海軍は堂々と太平洋に出てくる。そうなると「太平洋には米中両国を受け入れる十分な空間がある」と繰り返し米大統領に迫る習近平(シー・チンピン)国家主席の「中華民族の偉大な復興の夢」も、現実的な「世界の悪夢」となる。

ハワイ沖に米中中間線が引かれ西太平洋が「中国の海」となれば、没落する「帝国」アメリカと新興の「中華帝国」による世界分割となる。台湾は「祖国の懐に復帰」し、日本は「中華人民共和国ヤマト自治区」になるかもしれない。

こうした脅威をよそに、日本の政治家や評論家は北朝鮮が世界的脅威だと唱えてやまない。

中国に擦り寄る三不政策

彼らは歴史的な悪夢の再演を恐れている。あたかも日本列島の脇腹に突き刺さるナイフのような形をした朝鮮半島を支配した勢力が日本を脅かしてきた。中国の歴代王朝、近代では帝政ロシアが試みた南下がそうだ。

北朝鮮脅威論者はさらに、金王朝の崩壊と韓国による統一のシミュレーションを描く。統一朝鮮が誕生すると、人口など国力の面で日本に接近する。歴史問題でぎくしゃくしてきた日本は南北統一を望んでいない。一方、統一朝鮮の国境が北へ延び在韓米軍の活動範囲も広がることは、中ロにとって悪夢だという。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story