コラム

日仏外務・防衛閣僚会合、「特別なパートナーシップ」に中国の影

2018年01月29日(月)13時30分

フランスのパルリ国防相とルドリアン外相、河野外務大臣と小野寺防衛大臣 Frank Robichon-REUTERS

<1月26日、日本とフランス両政府は4回目となる外務・防衛担当閣僚による会合(2プラス2)を開き、日仏双方が、中国に対する認識を共有し、政策協調を進めることを改めて確認した>

フランスのルドリアン外務大臣とパルリ軍事大臣が日本を訪問し、26日に河野外務大臣・小野寺防衛大臣と、外交・安全保障に関する政策対話(いわゆる2+2外務・防衛閣僚会合)を行った。2013年6月に国賓として日本を訪れたオランド大統領と安倍首相との間で、「特別なパートナーシップ」を築くことが合意され、その一環として、2014年1月にパリで第1回会合が開かれて以降、今回で4回目となる。

今回の対話の成果として注目されるのは、日仏双方が、中国に対する認識を共有し、政策協調を進めることを改めて確認したことだ。

会合後の共同発表によれば、両国の4閣僚は、中国を念頭に「東シナ海及び南シナ海における状況への懸念」を表明し、特に南シナ海に関して、「拠点構築及びその軍事目的での利用といった、緊張を高める一方的な行動に対する強い反対」を表明した。

このことは、「同じ太平洋に利害を持つ日仏が緊密に連携して法の支配に基づく国際秩序を維持強化していく強い決意を内外に示す」との河野外務大臣の主張に、フランス側も同調し、積極的に応じたことを意味する。

日仏双方の「共通の利益」、自由で開かれたインド太平洋

さらに共同発表によれば、日仏双方は、「両国が共に太平洋国家であることを認識しつつ、特にこの地域における海洋分野での協力を継続し、強化することにコミットし、自由で開かれたインド太平洋のために、パートナー諸国と共に尽力することが共通の利益であることを確認した」。

ここで謳われている安倍政権の外交戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」については、昨年の2+2の共同声明では、日本側の意図表明として記されるにとどまっていたのが、今回においては、「自由で開かれたインド太平洋のために、パートナー諸国と共に尽力すること」が、日仏双方の「共通の利益」とされ、フランス側としてもこれにコミットすることに踏み込んだ点が注目される。

もともと対中宥和の傾向が強かったフランス

もともと対中宥和の傾向が強かったフランス外交が、ここにきて日本との協調重視に軸足を移しつつあるように見えるのはなぜか。

その背景にあるのは、中国の台頭に伴う戦略的環境の変化、とくに近年の中国海軍力の増強(中国海軍の外洋海軍化)であろう。ニューカレドニアやポリネシアに海外領土(およびそれに伴い広大な排他的経済水域)を持つフランスが、自らを太平洋国家と規定することは、なにも今に始まるものではない。

しかし、その意味合いは、中国海軍の外洋展開能力が現実のものとなってくるに伴い、自ずから変わらざるを得ない。戦略原潜を柱の一つとするフランスの核戦略も影響を免れない。

とはいえ、フランスの脅威認識のなかに、中国が明示的に含まれるわけではない。フランス国防白書(2013年版)でも、中国の軍事力(特に核戦力と域外展開能力)の近代化と増強に注目しつつ、他のアジア諸国も含めた軍備拡大と領土ナショナリズムの高揚が、アジアの不安定リスクを高める要因となるとの認識にとどまっている。

ただ、こうした潜在的な紛争の脅威に対し、フランスは直接晒されているわけではないが、安保理常任理事国としての責任、インド洋と太平洋におけるプレゼンス、米国の同盟関係などに鑑み、直接の当事国として関与せざるを得ないとの認識も示されている。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story