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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリアが原子力発電所を再稼働させる準備を開始

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メローニ政権はイタリアでの原子力発電所再稼働に向け、2025年初めに原子力法案を議会に提出する予定である。

イタリアの右派政権は、当初よりエネルギー自給率を向上させるため、原子力発電の再稼働を推進しており選挙公約にも掲げていた。
これは、持続可能なエネルギーの確保や温室効果ガスの削減を目的とし、電力供給の安定性やコスト削減にも寄与すると期待されている。この動きは、エネルギー政策の見直しや経済の変化に対応する一環である。
しかし、原子力の安全性や廃棄物処理に関する課題についての議論も続いている。

ジルベルト・ピケット・フラティン環境・エネルギー安全保障大臣は、持続可能な原子力エネルギーの生産には明確な法的枠組みが必要と述べ、新型小型原子炉(SMR)や先進モジュール炉(AMRなどの新技術を活用した法案を2024年末までに策定する方針を示した。
この法案は議会での精査を受け、原子力再導入のための枠組みを確立することが期待されている。

法案では、核エネルギーの再導入に向けた安全規制や環境保護のための準備が定められ、原子力独立機関の設立や新発電所の適地選定も含まれる。特に、新型小型原子炉(SMR)や第四世代の技術に焦点を当て、2030年までのエネルギーミックスに原子力を統合する方針だ。
中期的には小型原子炉、長期的には核融合研究に注力すると述べている。

最新世代の原子炉が必ずしも最良とは限らず、第4世代原子炉は第3世代と並行して運用され、それぞれの特定の用途に応じた設計がなされている。特に、VHTRや液体金属炉は効率的で持続可能なエネルギー生産を目指し、熱供給や燃料サイクルの閉鎖に焦点を当てた次世代の原子力技術として期待されている。

原子炉建設のコストについては、急増する需要と建設の遅れがリスク要因とされる。
イタリアは原子力の再導入を目指しており、新たな法案は国のエネルギーミックスに原子力を統合することを目的としている。

しかし、原子力発電所の建設地や放射性廃棄物の管理に関する課題も残っている。
新たな国立原子力安全機関の設立や、放射性廃棄物の処分場確保が求められ、2025年には過去の燃料の返還が予定されている。
51の地域ではすでに抗議が起きており、認可取得には長いプロセスが見込まれる。

| 原発に関するイタリア国民投票

イタリアで原子力再導入の機会を問う国民投票が行われた場合の世論調査結果では、賛成が51%である。24%は「絶対に賛成に投票する」と宣言し、27%が「おそらく賛成に投票する」と答えている。反対派は26%で、「絶対に反対に投票する」が16%、「おそらく反対」が10%、「どちらとも言えない」が23%である。特に34歳以下の若者層が人口の中で最も好意的な層であり、ほぼ60%が原子力発電所の稼働に賛成で支持していることが明らかになっている。男女比では女性の方が5%多く賛成だと答えている。

原子力技術は起業家精神の高い地域でより支持される一方、農業地域では支持が薄い。しかし、大規模な人口密集地に関するデータは驚くべきものである。
一方、地域の交通制限政策を支持する左翼の政治勢力やグループZTLの左翼らによって、反対の声が強まっている可能性がある。

イタリア人の原子炉に関する知識が試されている。良いニュースは、市販されている第3世代および大型原子炉が小型原子炉と同様に安全であることを71%の人が理解している点である。

しかし、環境への影響については混乱が見られ、SMRが大規模原子炉に比べ「ゼロエミッション」と考えられている回答者は4%多かった。実際には、環境への影響は規模に関係なく、より大型の原子炉が好ましい可能性があるが、違いは微小である。

MMR(マイクロモジュラー炉)技術は、主に軍事基地や鉱山村、科学ステーションなどの孤立した施設に電力を供給するように設計されている。したがって、これを一般の電力システムの脱炭素化の観点から評価することは適切ではなく、実際の排出量を評価する際も、ディーゼル発電機との比較に限られるため、意味が薄いということを指摘している。

イタリア人に自宅から20キロ、100キロ、500キロ以内の原子炉建設の受け入れについて尋ねた結果が興味深い。
イタリア半島の幅は、最も広い部分で約240キロメートルであるため、半径500キロの範囲という回答は無意味だが、特に注目すべきは、39%の人が、自宅から20キロ以内に原子炉を設置したくないと回答している点である。

MMR(マイクロモジュラー炉)ではやや支持が高まるが、大きな関心を引かない。自宅から100キロ以上離れると、大型炉の支持は49%、SMR(小型モジュール炉)は52%に増加するが、差は小さい。
SMRは小型で、比較的迅速に設置できることから、柔軟なエネルギー供給が期待されている。MMRはさらに小型で、特に孤立した施設への電力供給に適しているが、一般的な電力システムには適さない。

| 原子力発電所を停止した理由

イタリアには元々4つの原子力発電所があった。

1. トリノ原子力発電所(Centrale Nucleare di Torino): ピエモンテ州、1970年代に運転開始。
2. カッシーノ原子力発電所(Centrale Nucleare di Cassino): ラツィオ州、1970年代に運転開始。
3. レッジョ・エミリア原子力発電所(Centrale Nucleare di Reggio Emilia): エミリア=ロマーニャ州、1970年代に運転開始。
4. ガッタリーニ原子力発電所(Centrale Nucleare di Garigliano): カンパーニャ州、1960年代に運転を開始。

これらの発電所は、1990年代初頭に運転を停止させた。

発端は、1986年のチェルノブイリ事故が大きな影響を及ぼし、原子力の安全性に対する国民の懸念が高まったからであった。

イタリアの原子力発電所が停止した主な要因は、チェルノブイリ事故・国民投票・経済コスト・環境問題が挙げられよう。

1987年に行われた国民投票で、原子力発電の将来的な利用に反対する結果が出たため、政府は原子力からの撤退を決定したが、原子力発電のコストや経済的な競争力が問題視され、再生可能エネルギーの導入が進む中で原子力の必要性が減少した。
放射性廃棄物の処理や環境への影響が懸念され、持続可能なエネルギー供給に対する期待が高まった。

これらの要因が重なり、イタリアは原子力発電からの撤退を選択することとなった。

イタリアの原子力発電所を停止する前と後の電気料金には顕著な違いがあった。
原子力発電所が稼働していた時期、特に1990年代から2000年代初頭は、比較的安価で安定した電力供給が行われていた。原子力はコスト効率が高く、大量の電力を供給できるため、電気料金は比較的低めに抑えられていた。

しかし、原子力発電所が停止された後、特に2000年代中盤以降は、再生可能エネルギーや化石燃料への依存度が高まり、電力供給のコストが上昇した。その結果、電気料金は上昇傾向にあり、消費者にとって負担が増した。再生可能エネルギーの導入に伴う初期投資やインフラの整備、そして市場の変動により、電力コストは高騰し、家庭や産業への影響が顕著になった。

このように、原子力発電の停止は、電気料金に直接的な影響を与えた。

イタリアの原子力発電所の停止に関する法律は、1987年に成立したもので、当初は25年間の有効期限が設定されていた。この法律により、原子力発電の新規建設が禁止され、既存の原発も順次停止されることとなった。
25年後の2012年に法律の有効期限が切れる前に再度、国民投票を行い、停止のままにするか、再稼働するかの是非を問う必要があった。
当初から、その国民投票は2011年6月に行うことが予定されてあった。

なぜなら、イタリアの原子力発電所停止後、電気料金は約30%から50%の上昇が見られたとされている。
具体的には、2000年代中頃から2020年にかけて、一般家庭の電気料金はおおよそ€0.20から€0.30(約25%から50%の増加)まで上昇した。

この影響により、多くの市民が生活費の負担を感じ、特に低所得層にとっては大きな経済的影響があった。

2011年6月の国民投票の3ヶ月前に、大事件が勃発した。

2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故である。

日本では、福島第一原子力発電所事故があったから、イタリアが国民投票を行い、その結果、原発4基全てを停止させたという間違った情報が当時のTwitterで拡散されていたが、それは間違いである。

元々、1990年代初頭から止まっていた。そして、その法律は25年後の2012年で切れるので、その前に再度国民投票を行うことになっていた。それは、2011年6月に予定されてあったのだ。

世論調査では、福島第一原発事故前のイタリアでは、原子力再稼働に対する賛成派の割合はおおよそ50%程度とされていた。しかし、事故後の世論は大きく変わり、反対派は60%以上に達した。この変化は、原子力の安全性に対する国民の懸念を反映したものである。

イタリア国民の原子力に対する反対意見へと一気に転換し、原子力発電所を再び停止させたままにするようになった。

この事故が、原発の安全性や環境への影響に対する懸念を一層強めたのだ。
特に、事故後に放射性物質が広範囲に拡散したことや、長期的な健康リスクに関する情報が流れたことで、多くの国民が原子力発電に対する不安を抱くようになった。

イタリアでは、こういった流れで、過去の原子力政策に対する反省や、持続可能なエネルギー源への移行の重要性が議論される中で、福島事故は一つの大きな転機となった。
これにより、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上に対する支持が高まり、原子力発電への反対意見が強化されてきた。

| イタリアが右派政権へと政権交代したことの影響

イタリアの右派政権への政権交代は、原子力発電所の再稼働に向けた動きに大きな影響を与えた。

右派政権は一般的にエネルギー自給率の向上や経済成長を重視し、原子力の再導入を支持する傾向がある。具体的には、以下のような影響が考えられる。

1. 政策の転換: 新政権は原子力の重要性を強調し、再稼働に向けた具体的な方針を打ち出した。

2. 規制緩和: 原子力発電所の建設や運用に関する規制が見直され、迅速な再稼働を目指す動きが促進された。

3. 国民の支持: 経済的な安定を求める国民の支持を受けて、原子力再稼働の議論が活発化した。

4. 国際的な影響: 欧州のエネルギー政策における原子力の役割を再評価する流れの中で、右派政権はその方針に乗る形で再稼働を推進する姿勢を示した。

これらの要因が相まって、イタリアにおける原子力発電所の再稼働が現実味を帯びてきた。

| 現在のイタリアの電力エネルギー源

かつては電力の一部を賄っていた原子力発電所は現在停止しているが、では、どこからイタリアは電力を賄っているか。

まずは天然ガス。最大の電力源で、全体の電力の約40%を占める。
そして、再生可能エネルギー。 太陽光、風力、水力などが重要な役割を果たし、全体の電力の約35%を占める。そして、石炭電力が約10%を占めているが、徐々に削減されている。

イタリアは、石炭による電力供給を完全にゼロにすることを目指しており、これに伴う政策が進められている。これにより、再生可能エネルギーの導入を拡大し、温室効果ガスの排出削減を図る方針である。
この目標は、EU全体の気候変動対策に沿ったものであり、持続可能なエネルギーシステムの構築を目指している。

輸入は主に天然ガスに依存しており、他の国からも電力を輸入している。
イタリアはロシアに対して制裁を強化しており、天然ガスの輸入を段階的に減少させる方針を採っている。特に、ロシアの侵略戦争を受けて、依存度を下げるための努力が進められている。ただし、完全な禁止には至っておらず、他の供給国からの調達を模索している状況である。

イタリアは原子力燃料を主にカナダやオーストラリアから輸入し需要を満たす役割を果たしている。その中にロシアからも一部のウラン燃料を輸入されていたが、ロシアのウクライナ侵略戦争の影響でロシアからの輸入は停止されており、イタリアはその影響を受けないように他の供給国からの調達を強化している。これらの国からの輸入は、イタリアの原子力発電所で使用される燃料の供給源となっている。

イタリアには、原子力発電や石炭による電力供給に代わるいくつかの天然資源が存在する。

再生可能エネルギーと 地熱エネルギーとバイオマスである。

イタリアは太陽光発電に非常に適した地域であり、広範な太陽光発電設備が導入されている。特に南部や沿岸地域で風力発電が発展しているし、山岳地帯には水力発電所が多く、再生可能エネルギーの一部を担っている。

イタリアは地熱エネルギーの利用が進んでおり、特にトスカーナ地方での発電が行われている。そして、農業や林業からの副産物を利用したバイオマスエネルギーも存在し、地域エネルギーの供給に寄与している。

これらの天然資源は、脱炭素化を目指す中で、原子力や石炭に代わる持続可能なエネルギー源としての役割が期待されている。

イタリアの電力市場に貢献している日本企業もある。

三菱重工業は風力発電機やタービンの製造を手がけ、イタリアの再生可能エネルギー事業に参加しており、日立製作所はエネルギー効率の高い技術を提供し、電力インフラの整備に関与している。そして、ソフトバンクグループも再生可能エネルギーに投資し、イタリアのプロジェクトに資金を提供することもる。

これらの日本企業は、技術提供やプロジェクトへの参画を通じて、イタリアの電力供給に貢献している。

| 再稼働予定の新しい原子炉は採算が取れるのか

4,300 MWの原子炉の一晩のコストは、1台の1,200 MW原子炉の一晩のコストよりも高くなる。
小型原子炉が好まれる傾向があるのは、より早く建設できるため、長期的にコスト削減が見込まれるからだ。
しかし、実際には経済的な問題をエンジニアリングで解決しようとする傾向がある。
リスクは2つ存在する。
1つは、SMRの需要が急激に増加した場合にボトルネックが生じる可能性、もう1つは、原子炉のサイズに無関係な要因(例えば、*NIMBY運動)によって建設が遅れ、経済的利益を失うリスクである。

*NIMBY運動とは、「Not In My Back Yard」の略で、特定の施設やプロジェクト(例えば、ゴミ処理場や原子力発電所など)が自分の住む地域には設置されないことを求める住民の運動

大臣が述べたように、イタリアの需要の20%を原子力で賄うことが目的である。
これは、原子力が民間産業の選択肢としてのみ見られていたという前回の声明と矛盾している。したがって、大型の原子炉はほとんど必要なく、中小規模の原子炉を25~30基建設する必要がある。また、金利を引き下げるための資金調達メカニズムを見つけることが重要である。

2025年には、旧イタリアの原子炉からの照射済み燃料がイギリスから返還されるという。
イタリアが以前使用した原子炉から出た放射性廃棄物や使用済み燃料を、イギリスに保管していたものを再びイタリアに戻す計画があることである。

これは、使用済み燃料の適切な管理と処分が求められる中で、イタリア国内における安全な保管場所を確保する必要があることを示している。この返還が行われる前に、イタリアはその保管方法や場所を決定しなければならず、さもないとEUからの罰金が科されるリスクが高まるそうだ。

イタリアの原子力発電再導入に向けて、上院環境委員会での議論が始まった。核技術の現状や役割については依然として混乱が見られるが、今回は具体的な措置が盛り込まれた。この法律は委任されたものであり、有効化のための規定は政府によってこれより採択される。

イタリアが再稼働を予定している新しい原子炉の採算性は、建設コストや運転コスト、燃料費などの経済的要因に大きく影響される。また、電力市場の価格が高い場合、発電による収益が増え、採算が取りやすくなるが、逆に再生可能エネルギーの普及による競争も考慮しなければならない。

さらに、政府のエネルギー政策や規制の変化、原子力発電に対する社会的受容も長期的な運営に影響を及ぼす要因となるため、総合的な評価が求められるだろう。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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