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ドイツの街角から

シュピッツナーゲル典子|ドイツ

ドイツ・あの悲劇を忘れないために 過去と向き合う「つまずきの石」 発起人グンタ-・デムニッヒ氏に聞く

翌日9月24日午前9時、デムニッヒ氏によるつまずきの石の埋め込み作業が始まりました。敷設に必要なセメントやゴムハンマーなど、すべて同氏のミニバンに用意されています。今回は、6か所に碑石と細長い石が埋め込まれます。

彼はオーバーオールに膝当て、ゴムハンマーを手にして地面にしゃがみ込み、作業を始めました。途中で汚れてしまった記念碑に水をかけてペーパーで拭き取る様子を見学していると、犠牲者に敬意を示す同氏の気持ちが伝わってくるようです。

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10 spnoriko.JPG11 spnoriko.JPGこの日、15個のつまずきの石とひとつのシュトルパーシュウェレが6か所に設置されました。なかでも印象的だったのは現在ぺスタロッチー学校(グルンド・シューレ)の建物前フースゲンハイマー通りでの設置でした。休憩時間だったのでしょうか、子供達の元気な声が聞こえ、ごく普通の平和な一コマです。

ですがここで第二次世界大戦後、SPD(社会民主主義)地方協会の創設者の一人、そして一時はムターシュタットの名誉市民を務めたこともあるフリードリッヒ・ベルストラー氏は、ナチスの標的となりました。最寄の刑務所へ入獄されたものの、最終的には出獄できました。

敷設作業の見学者のほとんどは高齢者ですが、その中で目を引いたのは若いカップル。パトリックさんとエレナさん夫妻は、オーガスハイマー通り33番地に7つの記念碑が敷設されたユダヤ人一家の母親エマ・オーエルバートのために、つまずきの石を寄贈したといいます。

21 spnoriko.JPG二人は偶然、ムターシュタットでつまずきの石の敷設が行われることを知りました。作業の行われる通りのひとつ、オーガスハイマー通り33番地を探してみたら、「なんと自宅の対面通りだと知り、鳥肌が立った」とパトリックさんは語ります。

つまずきの石プロジェクトを非常に重要と考えています。金曜日の午前中だということもありますが、(見学者に)若い世代がいないのは残念です。自分の目で見て歴史から学ぶ良いチャンスだといいます。

01 spnoriko.JPG敷設セレモニーは2時間程で終わりました。デムニッヒ氏は、ムターシュタットでの作業を終え、次の街へ向かいました。

ムターシュタットでつまずきの石プロジェクトが始まったのは2020年。その後、コロナ禍の影響で2021年に予定していた記念碑設置は延期となり、2022年2月に一回目(27個)、5月に二回目の碑石(20個)が敷設されました。

このプロジェクトの背景には市当局の許可をはじめ、協力が必要です。記念碑を設置する準備、石を置く作業、当日の交通規制やその後の作業において、市従業員の手助けが大きな援助となります。もちろんデムニッヒ氏への報酬も含まれます。デムニッヒ氏の都合で現地に出向くことができない場合は、市当局に記念碑設置の許可を出し、地元の担当者が作業をします。

同市では数年前から、団体や個人がこのアートプロジェクトへの参加を希望していました。2020年1月、文化委員会と市議会は、ムターシュタットでもナチスの犠牲者をつまずきの石で追悼することを決定したのです。今後もさらなる設置が計画されているそうです。

ナチス時代に600万人以上のユダヤ人が殺害されました。犠牲者は殺害だけではなく、自殺した人もいますし、ユダヤ人だけでもありません。ジプシー(シンティ・ロマ)、ハンディキャップのある子供達など数えきれない人達が挙げられます。

デムニッヒ氏はすでに76歳。自身の手で埋め込む作業は何時までできるかどうかは不明です。今後もこのプロジェクトを続けるために、「つまずきの石」財団を設立しました。

悲劇の過去と犠牲者の家族の苦しみを忘れず、このようなことが二度と起こってはなりません。世代を超えた不変の義務です。

この記事を書き終わったところで、素晴らしいニュースが入りました。

国家社会主義の犯罪の記憶を風化させないために、連邦議会はドイツの強制収容所跡地やその他の追悼施設に8000万ユーロ近くの資金提供が承認されました。

過去と向き合う( Vergangenheitsbewältigung) 追悼の文化(Erinnerungskultur)はドイツの日常生活の中に根付いています。

Special Thanks

ムターシュタット市長・Thorsten Leva、プファルツ歴史協会ムターシュタット支部・Michael Ceranski

 

Profile

著者プロフィール
シュピッツナーゲル典子

ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。

Twitter: @spnoriko

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