ドイツの街角から
第73代ドイツワイン女王審査会場で考えた地球温暖化の行方
「起立してください。これから1分間、7月中旬の大洪水でなくなった方へ黙祷を捧げたいと思います」
9月24日、第73代目ドイツワイン女王選出会場のノイシュタット「ザールバウ」に司会者の声が響き渡った。一瞬、華やかなステージとは対照的な重い空気が立ち込め、一同、甚大な被害を受けた被災者に思いを馳せた。
災害については以前の記事でもお伝えしたように、全世界で話題となり、後片付けを手伝うため現地に向かうボランティアの熱い思いと共に大きな注目を集めた。予期しなかった大洪水で何十年もかけて築き上げた生活の基盤を失った人々の中には、ワイン醸造家もいる。
実は今年もドイツワイン女王選出の審査員として参席させていただいた。全国ワイン生産地を代表する地区ワイン女王の頂点にたつドイツワイン女王、そしてプリンセス2名は、国内外各地を訪問しワインの魅力を伝えるドイツならではの商法で販売促進の一端を担っている。
ドイツワインは、13の生産地域で醸造されている。これら生産地域を地理的にみると、北緯50度前後と北海道よりもさらに北に位置する寒冷地でつくられているのが持ち味だ。
それが温暖化に伴い、ぶどう栽培は国内北部でも可能となっていることから、ドイツワイン業界は地球温暖化による「勝ち組」だと言われている。とはいえ、いいことばかりではない。ブドウ栽培作業は天候に大きく左右されるため、毎年異なる状況の中で試行錯誤しながら対処している。
ここでは今年の最終戦選出会場の様子をお届けするとともに、刻々と迫りくる温暖化について考えてみた。(画像は特記以外すべて筆者撮影)
ドイツワイン女王選出会場にて
このイベントで最後の役目を務める第72代目ドイツワイン女王エヴァ・ランツェラートさんとプリンセスのエヴァ・ミュラーさんが舞台に登場し、一年を振り返り、熱い思いを語った。
72代プリンセスのエヴァさん(左)と女王エヴァさん(右)
女王エヴァさんは今回甚大な被害を被ったアール地方出身。ワイン女王任務中は、故郷の災害ゴミの後片付けと並行し 、コロナ禍の合間を縫って国内ワイン生産地を訪れた。
通常女王は、国内外で年間200件ほど、プリンセスは100件ほどの任務をこなしています。ですが、コロナ禍でドイツワインの魅力を伝える大使としての海外活動はほとんどできず、自分が思い描いていた通りにはいかず残念でした。一方、コロナ禍の中、快く迎え入れてくれた全国のワイン生産者に感謝します。
学ぶこともたくさんありました。なかでも実家が大洪水被害にあい、その後片付けの中で団結してお互いに助け合うことがいかに大切かを体感したのは忘れられません。
これからは女王という王冠の一部を心の中に常に持ち、教師として新しい冒険に向かっていきたい。
続いて、ラインヘッセン地方出身プリンセスのエヴァさんはこう語った。
ドイツのワイン業界を代表することは、女王とプリンセス2人のチームワークが重要なカギ。相互に理解しあい調和することはとても大切でした。
コロナ禍で国内外の活動は途絶えてしまったものの、その分、オンライン試飲やネットワーキングを強化することができたことは貴重な体験でした。
ちなみにもう一人のプリンセス・アナさんは、個人的な事情で欠席した。
いよいよ新ワイン女王の選出だ。9月18日の予選を通過した6名の候補者が9月24日の最終戦に登壇した。
審査内容は、ブラインドティスティングやワイン専門知識の問いに、迅速かつ臨機応変な対応ができているかなどを評価。審査員70名による投票で、73代目ドイツワイン女王はバーデン地方シナ・エルドリッヒさん、プリンセスはアール地方のリンダ・トラ―ルバッハさんとプファルツ地方のサスキャ・トイケさんと決定した。
中央3人が新ワイン女王とプリンセス。左よりリンダさん、シナさん、サスキャさん
大洪水被害地アール地方の今
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko