ドイツの街角から
第73代ドイツワイン女王審査会場で考えた地球温暖化の行方
ラインランド・プファルツ州北部に位置するアール地方は、赤ワイン生産地として知られている。国内で最も小さいワイン産地の一つで、ガストロノミー、ホテル、観光などすべてがワイン生産に依存している。近郊のボンやケルン地域の憩いの場として、何十年にもわたって観光客に人気の場所だ。
そしてコロナパンデミックが落ち着いて外出できるようになってからは、遠方から来訪する客も増え、風光明媚で美味しいワインの産地としてさらに注目されるようになり、営業再開に期待した。そんな矢先、大洪水に見舞われた。
この大洪水により、全アール地方560ヘクタールのうち、50ヘクタールのブドウ畑が破壊され、そのうち3分の2は取り返しのつかない状態になっている。周辺のワインセラーやワイン醸造所にも多くの被害をもたらしたが、今年のブドウ品質は良質だという。 (ドイツワイン協会報告)
今回、プリンセスに選出されたアール地方出身リンダさんの実家も大洪水で被害を被った。ペンションを経営する家族を思い、出場しようかどうか悩んだという。だが、「こんな時だからこそ、この地区を代表して出場すべき。多大な支援に感謝するためにも」と父親に背中を押され、今ここにいると語った。
洪水の被害を受けた家屋や店舗が再び使えるようになるまでには、少なくとも数ヶ月を要する見通しだ。そのため、同地方にある多くの小売業者は、現在コンテナやテントを用いた店舗で新たなスタートを切り始めた。
とはいえ、地元の心理学者によると、15000人以上の住民が心理的な傷を負っているという。一般的に災害後、約3%の人が心的外傷後ストレス障害になるそうだ。アール地方の場合、具体的な数値やトラウマについて語るにはまだ早すぎるようだ。これから暗くて寒い季節がやってくるが、暖房や電気などライフラインの復活していない地域もあり、完全復旧には長い道のりだ。
ドイツワインの未来と課題
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko