スペインあれこれつまみ食い
海なしでは語れない?スペイン今年の夏休み事情
現在スペインはバケーションシーズン真っ只中。日本では夏に4日程度の夏季休暇があると思いますが、スペインでは1年間に与えられる30日の有給休暇をこの時期でドカッと消費してしまうのが一般的のようです。日本でOLをしていた頃、4日間の夏季休暇を少しでも長くしようと1日2日程度の有給を使い土日とくっつけ、なんだかズルイことをしているような罪悪感とカレンダー通りに働いている同僚に迷惑をかけてしまう申し訳なさとが混じった気持ちに苛まれながら連休を過ごしていたような記憶があります。しかしスペインでは、この時期に有給のほとんどを使ってしまう人もいれば、イースターなど他のイベント事のために有給を半分程度残す人、観光客が多いバケーションシーズンを避け他のタイミングで大型連休をとる人など、夏の長期休暇の取り方は人それぞれ。有給消化率も100%ということなので、スペインは日本よりも連休が取りやすい環境にあると言ってもいいのかもしれません。
アクティブな夏季休暇
NEXOTURが今年5月に公開した記事によると、今年の夏季休暇にどこかしらに旅行に出かける計画を立てているスペイン人は全体の83%を占めているそうです。ホテルや航空券の検索数も去年よりも30%前後アップしているのは、パンデミックから完全に解放され国民の旅行意欲が高まっているからでしょう。行き先は66%が国内旅行を計画しており、期間は約半数が1週間前後を予定していると記事には書いてあります。私の知人らの多くは、2週間程度の休みをとってそのうちの1週間は少し遠出をし、残りの1週間は家でのんびり過ごしたり近くの村にデイトリップに行くという過ごし方をしています。日本ではせっかくの休みだからどこにも行かず家でゆっくり過ごすという人も少なくない印象がありますが、スペイン人は休みが長いということもあり、ゆっくりしたいから休暇中どこにも行かないという人はほとんど見かけません。
海水浴が大好きなスペイン人
私の周辺に過ぎないのかもしれませんが、夏に海に行かないスペイン人を私はほとんど知りません。海に行かないとバチでも当たるのかと思ってしまうほど、夏になるとみんな必ず一度は海に繰り出すのです。そのため毎年暑くなってくるとビーチリゾートは人でごった返し、マドリードなど海がない都市には人がいなくなるという現象が起きます。先日マドリードに行きましたが、街を歩いているのは遠くから来たであろう海外の観光客ばかり。レストランやカフェも半日営業だったり休業していたりと、とても首都とは思えないような光景が広がっていました。
パラソル戦争
この時期スペインのビーチリゾートには、スペイン人に限らず太陽の日をたっぷり浴びたいヨーロッパ人や欧米人たちが次から次へと押し寄せます。せっかくビーチに来たのだから、少しでもいいロケーションでビーチを楽しみたいと思う気持ちは皆同じ。そこで起こるのがパラソルを使った場所取り、通称「パラソル戦争」です。中には早朝に起きてきてビーチの最前列にパラソルを差し、再びホテルに戻ってもう一眠りする強者も。さすがにそれはやり過ぎということで、今年から無人状態が一定時間続くパラソルは撤去し罰金を科することを決めた自治体も出てきたようです。
干ばつの影響
人気の海水浴場が集中しているカタルーニャ州やアンダルシア州は、雨不足による干ばつが最も深刻なエリアでもあります。こういった干ばつに悩まされている自治体の中には、やむを得ず海水浴場に設置してあるシャワーを使用禁止にする自治体も出てきました。このシャワー使用禁止は、貴重な水の使用量を減らすことを目的としていることはもちろんですが、利用者の節水意識の低さやマナーの悪さも原因にあると言われています。すでにこれらの州の中には生活用水の使用ですら制限されている自治体もあるのにもかかわらず、海水浴客たちの中には出しっぱなしのシャワーの下で子供を遊ばせたり、シャンプーやボディソープを持参し本格的にシャワーを浴びる人もいるのだとか。「節水しなくてはいけないということを理解していないみたいだ」「自宅の蛇口から水が出なくなるまで彼らが学ぶことはないのだろう」と各自治体の市長たちは呆れて果てているようです。そんな中、シャワー使用禁止の措置を取った後も持参したペンチなどで蛇口をこじ開け、無断でシャワーを使用している観光客の目撃情報などもあり、運営者は頭を抱えています。
偽の注意看板出現
バケーションシーズンのピークを迎えた8月半ば、カタルーニャ州のビーチに様々な注意看板が出現しました。警告の内容は「このビーチ、落石の危険あり」「クラゲ大量発生」などと英語で書かれてあり、ビーチの入場をためらってしまうようなものばかり。実はこの看板、全て偽物なのです。カタルーニャ州(主にバルセロナ)では毎年この時期になると多くの外国人が観光に訪れるのですが、一部の外国人観光客のマナーの悪さが問題になっています。この看板では外国人に向けて英語でビーチに入ってこないように嘘の警告を発し、その下に小さな文字で「どうぞお入りください。ただ外人は入ってくるな」と地元の人々が理解できるようカタルーニャ語で示されているのです。この看板は過激派の活動団体によって作成されたもののようですが、地元の人々からは賛否両論の意見が上がっています。
☎️ Parlem amb Lluc Gayà, membre de la coordinadora anticapitalista de Manacor @Caterva_mnc.
-- 'VERSIÓ RAC1' (@versiorac1) August 14, 2023
Han penjat cartells de perill en anglès per desfer-se dels turistes de les cales de Manacor.https://t.co/ouL394Guyt pic.twitter.com/4V0Xn0pDjP
インフラと夏季休暇
世界的にインフレが進む中、スペインも例外ではなく物価の上昇が止まりません。地元メディアによると55%のスペイン人がこのインフレで生活が貧しくなったと感じているというのです。今年の夏季休暇ももちろんインフレの影響を大きく受けており、宿泊するにもレストランで食事をするにもこれまでより多くのお金を払わないといけません。しかし「お金もないし人も多いから休暇に旅行に行くのはやめようか」とはならないのがスペイン人。若干は予算節約の傾向にはあるものの、どこにも行かないという選択肢はどうやら彼らには存在しないよう。街頭インタビューで「9月からまた頑張って働きます」「私は毎年夏に旅行に行くために貯金してるのよ」と答える人たちを見ていると、スペイン人はバケーション期間に旅行に行くことを目的に1年間一生懸命働いていると言っても過言ではないかもしれません。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon