日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
開かれたコロンビアとベネズエラの国境 希望の架け橋となるか
9月27日コロンビアとベネズエラの国境にまたがるシモンボリバル橋が再び開通し、陸路の貿易が正式に再開されました。この橋は2015年にベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領によって道路が封鎖されて以来、7年ぶりの開通になるということです。
8月に大統領に就任したグスタボ・ペトロ大統領は選挙活動時からベネズエラとの国交回復を宣言しており、6月には既にベネズエラのマドゥロ大統領と国境開放についての話し合いを重ねていました。シモンボリバル橋の上で行われた式典でマイクを握ったペトロ大統領は「今日は国にとって、そして南米にとって歴史的な日だ」と、この国交回復への第一歩を評価するコメントを残しています。
前大統領のイヴァン・ドゥケ元大統領は、ベネズエラに対して就任時からかなり厳しい姿勢を見せていました。「コロンビアは腐敗した麻薬密売独裁政権を認めることはない」と公言するなどマドゥロ政権に攻撃的な態度を示し、終始隣国ベネズエラと犬猿の仲を貫いてきた前政権。左派政権に変わり方針を一転させたコロンビアですが、このシモンボリバル橋開通には両国の商業や経済、治安など様々な影響が期待されています。
国交再開が与える影響
・経済
今回解放されたシモンボリバル橋はコロンビア−ベネズエラ間の関係が悪化する以前は南米で一番活発な国境と言われており、2008年の1月から6月の間コロンビアからベネズエラへの輸出額は300万ドルを越えていたほどでした。しかし今年の同時期の輸出額は34万ドルと14年の間に大幅に収縮しており、「兄弟」とも言われていた二国の繋がりはこの十数年でとても薄いものとなっていたのです。今回のシモンボリバル橋開通によって二国間の貿易額は来年2023年には20億ドルまで回復するだろうと予想されており、さらに活気を失っていた橋周辺の地域にも大きな経済効果をもたらすことが期待されています。27日に行われた式典では、ベネズエラの旗を掲げたトラックがステンレスシリンダーをコロンビアに輸送し、コロンビアからベネズエラには医療用品が届けられました。
#27Sep "La reapertura de la frontera entre Colombia y Venezuela es indudablemente un hecho histórico
-- Puesto Barrancas D331 (@Barrancas_D331) September 27, 2022
Así lo Dijo nuestro CJ Pdte. .@NicolasMaduro
#TurismoAutosustentable pic.twitter.com/w5MMZfYv4w
・治安
近年さらに治安の悪化が心配されるコロンビアですが、治安改善のためにはベネズエラの存在を無視することはできません。緑の同盟党のアリエル・アビラ議員によると、コロンビアとベネズエラの国境付近には17もの武装グループが潜んでおり、これらのグループはコロンビア警察から追われると国境を越えてベネズエラに逃げ、ベネズエラ警察から追われるとコロンビア側に逃げることによって捕まることを逃れているというのです。前政権ではベネズエラとの関係を完全に絶っていたコロンビアですが、今回この貿易再開をきっかけに二国が手を取り合い、これらの武装グループを押さえ込むなど治安改善に向けて動き出すことが期待されています。
・市民の暮らしを取り戻す
治安とも関係しますが、国境付近にはたくさんの武装グループが存在していることから国境付近の街に住む一般市民は安心して生活を送ることができていません。街が武装グループに支配され、暴力に怯えながら日々生活を送っている市民も少なくはないのです。ペトロ大統領は式典のスピーチで「この貿易再開にメリットを感じるのは国境付近で生活している人々であって欲しい」と述べ、市民の平穏な暮らしを望むコメントを残しました。
そしてこの橋の開通はベネズエラからの難民が安全にコロンビアに入国できるということも意味しています。たとえ国境が封鎖していたとしても、ベネズエラでの生活を続けられないと感じた市民は何としてでも国境を渡ってコロンビアに入国してきます。彼らの多くは国境に流れる川を渡ってコロンビアに入ってくるのですが、国境付近にテリトリーを構える武装グループたちがコロンビアに入国しようとしている難民たちに通行料を請求しているのです。逆らうと命の危険があるため難民たちは支払わざるを得ないのですが、こういったの通行料の徴収はこれらの武装グループたちの主な収入源のひとつとなってしまっており、国境の封鎖が両国の平和の障壁になっていることは明らかだったのです。
「希望」と「平和」
ベネズエラの経済破綻によって人口の約9%を占める約680万人ものベネズエラ人が祖国を後にしました。マドゥロ大統領の独裁政権に対抗するために当時アメリカの大統領だったトランプ氏は様々な制裁を加え、コロンビアの前大統領ドゥケ氏もそれに賛同する形でベネズエラに厳しく接してきましたが、結果ベネズエラ国民の貧困率を上げ、ベネズエラがどんどん世界から孤立していく結果に終わってしまっています。そんな中今年コロンビアの大統領が変わり、隣国であるコロンビアがベネズエラとの付き合いかたを一転させたことによって、ベネズエラに関する報道に「希望」や「平和」という文字がよく登場する様になりました。実際に希望が叶い平和が実現するかどうかはまだ分かりませんが、このシモンボリバル橋の開通がこれからベネズエラと世界の関係に何かしらの変化を与えてくれることを期待しています。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon