England Swings!
インスタグラムで開催中、「カミラ夫人の読書室」
「読書室」の仕組みはシンプルで、8週間をひとつの区切りとして課題書を4冊選び、それぞれに2週間ずつかけて深掘りしていくというもの。カミラ夫人から、「この本のようなできごとがあったら、あなたならどうしますか?」「著者のこの発言をどう思いますか?」などと質問も投稿されるけれど、実際に話し合いはしないので、意見交換というより、投稿される資料を見ながら1冊ずつ自分で向き合う形式だ(もちろん、コメント欄で参加者が意見を交換することも可能)。だから、実は読了していなくてもあまり問題はなくて、白状すると、わたしも課題書は半分ぐらいしか読んでいない。それでも投稿される動画や資料を見ていると、読んだつもりになってわくわくしまうので、投稿で興味を持って読み始めるパターンもありだと思う。
昨年はこれを4回繰り返したので、1年で16冊取り上げたことになる。選ぶ本はどうしても英語で書かれた本(英国のものが多い)になるけれど、内容は古典から話題の新作、児童文学、ミステリ、小説、とバラエティーに富んでいる。手に入りやすい本が多いところにも配慮を感じる。今ではフォロワー13万人以上の人気アカウントだ。
これまでの課題書には日本でも翻訳が出ているものも多い。たとえば、ノーベル文学賞を受賞した日系作家カズオ・イシグロの『日の名残り』(土屋政雄訳、早川書房)、2021年本屋大賞翻訳小説部門で第1位だった『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳、早川書房)、ヴィクトリア時代のミステリの傑作『白衣の女』(ウィルキー・コリンズ著、中島賢二訳、岩波文庫)、世界的なオピニオン・リーダーとしても注目されるチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『半分のぼった黄色い太陽』(くぼたのぞみ訳、河出書房新社)など。翻訳があれば、日本語で読んで参加するのもよさそうだ。
1冊に取り組む間には、写真や動画という形でたくさんの資料が投稿される。その内容は、本の読みを深める質問や作家インタビューのほかに、作家自身や作品の背景の紹介、本をもとに制作された映画やテレビドラマの映像の一部、作家の書斎や本棚の写真、同じ作家による他の作品の紹介など。参加者はこれを見聞きして、課題の本をさまざまな角度からとらえ、知識や思いを深めることになる。
さすがカミラ夫人の読書会、と感服するのは、その資料やゲストが豪華なことだ。現代の作家ならほぼ全員が動画出演して、作品や関連する話題について語っている(カミラ夫人と対談形式もあり)。その作家もノーベル文学賞を受賞した日系のカズオ・イシグロ、ベストセラー作家のヒラリー・マンテル、話題のトルコ系作家エリフ・シャファク(「読書室」ではまだ他の本しか取り上げられていないが、邦訳のある『レイラの最後の10分38秒』(北川絵里子訳、早川書房)は超おすすめ!)などなど、まぶしいくらいだ。作家本人や著名人による朗読動画もあって、ひとりで見ているのに、つながっている気持ちにもなる。
資料の動画は2、3分のものが多く、少しずつ別の角度から考える糸口を与えてくれて心地いい。写真や動画というのは気楽に取り込みやすく、若いデジタル世代は特にそう感じるかもしれない。インスタ映えする見せ方で投稿される写真や映像(皇太子夫妻のお屋敷やお庭の様子もあり)も、純粋に目の保養になる。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile