England Swings!
気分の重い11月を明るくしてくれた24時間チャリティ3つ
2年前、ケビンさんの元チームメートで、やはりイングランド代表としても活躍したロブ・バロウさんが、運動ニューロン病(MND)と診断されていることを発表した。MNDは体の筋肉がやせてだんだん動かなくなる神経細胞の難病で、まだ治療法が見つかっていない。すでに体が動かないロブさんは車椅子生活を送っていて、話す代わりにコンピュータで音を出して意思を伝えている。ケビンさんはMNDの治療研究への寄付金を集めるために101マイルを走ったのだ。
ケビンさんは去年、7日で7回のマラソンを走って270万ポンド(約4億500万円)を集めていた。もともと知名度の高い彼がチャリティ活動を成功させたので、今回の101マイルランも早くから注目されて、スタートの時点で募金は目標額を超えてしまっていた。走り終えて1週間経った現在、募金の総額は180万ポンド(約2億7000万円)超に達したけれど、ケビンさんはMNDの治療法が見つかるまで寄付金集めをやめないそうだ(101マイルランの様子はこちらのリンクから)。
友情のために走ったこのチャリティは感動的だった。北の訛りでぽつぽつ話す実直な印象のケビンさんは、地元で人気も信頼もある。当日は夜遅くにも多くの人が応援にかけつけて、親しみのこもった言葉をケビンさんにかけいてた。ゴールにはロブさんとケビンさんがプレーしていたラグビーチームのグラウンドが選ばれ、ロブさんはじめ、チームの選手やファンも見守る中、その様子がテレビで生中継された。走り切った後、ケビンさんは何度も目をぬぐうようなしぐさをし、車椅子のロブさんにハグする場面ではこちらもほろり。友だちのためにここまでできる人が世の中にいると知っただけで嬉しくなってしまった。
こうして見てくると、24時間イベントで大切なのは人柄なんじゃないかと思える。たとえ何をしても、長い時間続けるうちにその人の個性や姿勢、心意気のようなものが伝わる。わたしたちはそれに感動して、応援して、力になろうと思うのかもしれない。今回ご紹介した24時間チャリティでは、3人それぞれのすばらしい個性と温かい心に触れることができて、11月がいつもより明るく感じられた。
今日のおまけ:
最近、友人に教えてもらって『チャリティの帝国 もうひとつのイギリス近現代史』(金澤周作著、岩波新書)という本を読んだ。歴史的な背景から英国のチャリティを考えた本で、豊富な情報量で学びも大きかったのだけど、中でも印象に残ったのが「困っている人に何かしたい、困っている時に何かしてもらえたら嬉しい、自分のことでなくとも困っている人が助けられている光景に心が和む」という3つの気持ちを軸に著者が話を展開していたことだ。最初の2つはわかりやすいけれど、3つめは一瞬考える。でもやはりそのとおり。
今回ご紹介したチャリティ活動を、わたしはこの3つめの気持ちで見ていたのだと今は思う。ということは、私は「困っている人に何かしたい」とは思っていないのかな。この国に16年も経つのに、まだお客さん気分なのかな。思わぬところで自分を振り返ることになってしまった。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile