コラム

日本のサイバーセキュリティが危ない!時代に逆行した法案が導入検討されている

2024年03月19日(火)16時48分

EUのデジタル市場法にはサイバーセキュリティに関して致命的な欠陥が含まれている。その欠陥とは、AppleやGoogleの一定規模以上のモバイルOS提供者が提供するプラットフォームをアプリ開発事業者に強制的に開放させること(サイドローディング)だ。この政策が導入されることで、様々なマルウェアがプラットフォーマーのセキュリティを容易にパスし、モバイル端末利用者の情報にアクセスしやすくなることは自明だ。上述の中国のハッカー集団などは諸手を上げて、同法制定のチャンスに飛びつくことだろう。泥棒のためにわざわざ玄関以外の扉を開いて待つことを義務付ける内容に等しいものだからだ。

実際、欧州委員会はサイドローディングに関するセキュリティ問題を解決する方法を発見できていないようだ。欧州委員会の担当部局は昨年9月に「モバイル・エコシステムに関する調査に関わる調達」を実施し、上述のサイドローディングのセキュリティ上の懸念に関連する調査を開始している。同調達自体は「デジタル市場法の監督と執行の支援のため」という名目になっているが、その調査結果の公表は今年4月以降になる予定だ。(欧州におけるデジタル市場法の本格運用は3月7日にスタートしており、サイバーセキュリティに関しては見切り発車の危険な行為となっている。)

 
 

サイバーセキュリティ弱体化を懸念する多くの声

日本で誰もが持っているモバイル端末に膨大な数のセキュリティホールが出現させる法律を推進することは、安全保障上の判断として合理的な判断に基づくものではない。同法律の原案となる「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」(デジタル市場競争会議)には、日本国内からサイバーセキュリティ弱体化を懸念する多くの声がパブリックコメントに寄せられた。
それにも関わらず、日本政府がサイバーセキュリティ―人材不足を認識しながら、ビックテックのセキュリティ能力をあえて低下させ、更なるセキュリティリスクを拡大する法律を導入しようとする動機には疑問を抱かざるを得ない。

米中対立の最前線に位置付けられる我が国の状況は、その脅威認識が薄い欧州諸国の状況とは明らかに異なるものだ。中国、ロシア、北朝鮮などの強大な軍事国家を目の前に抱える日本の判断は、安全保障上の状況に鑑み、欧州諸国の判断よりもより慎重であるべきである。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story