コラム

欧米の腐敗が招いた対アフガニスタン政策の失敗、真摯な反省と関与継続を

2023年03月23日(木)11時50分

アフガニスタン・カブールで、地雷で両足を失った男性の家族 REUTERS/Sayed Hassib

<米国議会でアフガニスタン撤退に関して、そのプロセスの検証が進められようとしている......>

米国議会でアフガニスタン撤退に関して、そのプロセスの検証が進められようとしている。何故、バイデン政権はアフガン撤退時に非常に無様な姿を世界に向けて晒さざるを得なかったのか。その疑問についてホワイトハウスの関与の適切さが問われることになるだろう。

しかし、対アフガニスタン政策の問題は政権高官の単純な責任問題ではない。我々はこの政策の失敗について重く受け止め、対アフガニスタン政策を見直し、真摯に関与を続けていくことが必要だ。

欧米の対アフガニスタン政策が失敗した最大の要因は腐敗

2001年のアフガニスタン戦争後、約2500人のアメリカ人兵士が死傷し、米国だけで1兆ドルを超える血税を費やし、日本政府もそれに次ぐ多大な支援を実施したにもかかわらず、2021年8月にタリバンが首都カブールルに侵攻したことで、欧米の支援を受けたアフガニスタン政府は崩壊した。また、この戦争では、少なくとも、アフガニスタン市民が約4万6000人、タリバンが約5万3000人死亡するなど、多くの命が双方の陣営から失われることになった。

欧米の対アフガニスタン政策が失敗した最大の要因は腐敗だ。腐敗した政府は民衆からの支持を一瞬で失うことは世の常である。タリバン放逐後のアフガニスタン共和国の指導者らはこの例に漏れない存在であった。

欧米に支援されたアフガニスタン共和国の指導者は、欧米諸国との二重国籍者が少なからず存在していた。つまり、現地のアフガニスタン住民にとっては、彼らは欧米と癒着した浮世離れした都市エリートとして映って見えた。その人々が推し進めた中央集権政策に対して、アフガニスタンの住民からの反感が集まることは当然であった。

また、欧米からの巨額の海外援助はフィージビリティスタディが甘い事業に多く投入されて十分に成果を上げなかっただけでなく、その援助はドナー国に逆流して関係者の利権と化していた。そして、現地でダブついたマネーはアフガン社会の元からの腐敗を助長し、汚職や縁故主義の蔓延に一層の拍車がかかるようになってしまった。

国際社会側はタリバンの行動に影響を与える有効なツールがない

つまり、欧米は植民地支配の真似事を21世紀になってアフガニスタンで実行しようとしたのだ。そのような行為が現地人から反発を食らったのだ。イスラム法による厳格だが一貫した司法と清廉潔白さをアピールしたタリバンの支持が回復するのは一定の理があったと言えよう。全ての面で理想的な選択は難しいが、アフガニスタン人は自分たちの国を自分たちの手に取り戻したに過ぎないと言えるかもしれない。

現在、国際社会側はタリバンの行動に影響を与える有効なツールを持ち合わせていない。また、歴史的に見ても同地域に外部から強圧的に変化を加えようとしても効果がないことは明らかだ。ただし、同国の国情の安定は、中長期的に見た世界の安定にとっては重要だ。アフガニスタンの構造的な問題は現状でも解決しているとは言い難い面があるからだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏の「政府効率化省」、国民はサービス悪化を懸

ワールド

戦後ウクライナへの英軍派遣、受け入れられない=ロシ

ワールド

ロシア、ウクライナ東部・南部のエネルギー施設攻撃 

ワールド

韓国、中国製鋼板に最大38%の暫定関税 不当廉売「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 7
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story