コラム

2022年中間選挙で赤い波はあった、下院の接戦選挙区に届かなった理由

2022年11月28日(月)14時59分

したがって、上述の通り、共和党の余剰票である約300万票の大半が民主党候補者が出馬すらできない選挙区での大量得票が数字に反映されたものとなっている。一昔前まで特定の選挙区での大量得票の問題は、都市部に支持者が人口集中する民主党特有の現象であったが、いまや同様の問題が共和党にも起きるようになってしまったのだ。
 
実際には赤い波(総得票数増加)は存在していたが、その波が狙った接戦選挙区に届かない構造になっていたというのが選挙戦の実態であった。

トランプ系候補者らの質の低さが主因

さらに、接戦選挙区に赤い波を届けるためには、トランプ前大統領という巨大な防波堤も深刻な問題となっていた。
 
まず、上院接戦州での敗北は予備選挙を勝ち抜いたトランプ系候補者らの質の低さが主因だ。ペンシルべニア州も含めて本来は勝算があった接戦州で、共和党は候補者選択で自滅的な選択肢を採用してしまった。
 
トランプ前大統領は元々選挙に強い政治家ではない。2016年の大統領選挙では共和党内での予備選挙候補者濫立及び大統領本選は極めて不人気であったヒラリーとの戦いという構図に恵まれた。しかし、2018年の連邦議会中間選挙では実質的に惨敗し、2020年にはバイデンという弱い候補者に現職大統領として敗北した。
 
トランプ前大統領の選挙に弱いトラックレコードは、2022年の連邦議会下院議員選挙にも引き継がれており、トランプが支持した候補者はそれ以外の候補者と比べて総じて期待した成果を上げることはなかった。特に過半数奪取を左右する重要選挙区でのパフォーマンスは残念なものであった。(トランプ・非トランプ候補者の選挙パフォーマンスの比較はAEIの分析が極めて秀逸である。)
 
つまり、トランプ前大統領が選挙戦最終盤に選挙構図をバイデン vs トランプに演出したことよって、多くの重要選挙区では民主党に対する神風が吹き始め、赤い波が岸に到達することを妨げたと言えよう。
 
以上の通り、2022年連邦議会中間選挙の総括は、「赤い波は存在していた。ただし、選挙区見直しとトランプ前大統領の負の影響で重要選挙区には届かなかった。」とすることが正しい分析と言えるだろう。
 
今後、米国の共和党関係者で選挙に関わる人々の間では同様の見解が共通認識となっていくことが予想される。2024年大統領選挙・連邦議会議員選挙に向けた共和党の戦略は大きく修正が図られていくことになる。
 

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国GDP、第1四半期は予想外のマイナス 輸出減少

ワールド

インド、カシミール地方で観光客襲撃でパキスタンとの

ビジネス

米国との貿易協定締結は急がない=リーブス英財務相

ワールド

ローマ教皇の一般弔問始まる、バチカン大聖堂に長い列
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story