コラム

理想的な大統領に自分を投影している、ビル・クリントンの政治スリラー

2018年08月02日(木)15時00分

2016年大統領選で妻ヒラリーの応援演説をするビル。小説には、後ろに立つ娘チェルシーを連想させる一人娘も登場(筆者撮影)

<クリントン元大統領と有名作家の「共著」による政治スリラーは、あまりにも理想的な大統領の主人公にクリントンが自己投影をしているので、読者が恥ずかしくなるところも>

「ビル・クリントン元大統領がベストセラー作家のジェイムズ・パタースンと一緒に政治スリラーを書いた」というプレスリリースを読んだとき、「これは絶対にミリオンセラーになる」と思った。

ビル・クリントンが2004年に出した回想録『My Life(邦訳タイトル:マイライフ クリントンの回想)』は220万部以上売れ、ヒラリー・クリントンが大統領選を振り返った『What Happened(邦訳タイトル:WHAT HAPPENED 何が起きたのか?)』は2017年9月12日に発売されてから月末までの2週間強で30万部も売れる記録を作った。

このように、クリントン夫妻が書いた回想録はすべてミリオンセラーになっているが、それは、アメリカではまだ「クリントン」ブランドに商品価値があるからだ。政治評論家のクリス・マシューズが東海岸のリゾート地で開催されたトークイベントで「カリフォルニアの住民は、どういうわけだか、クリントン夫婦を神様みたいに崇め、愛している」と語っていたが、東海岸のニューヨークやマサチューセッツでもクリントン夫婦の人気は高い。

共著者のジェイムズ・パタースンは、2009年には「ニューヨークタイムズ紙ベストセラーリストに最も多くの作品が入った作家」として、2010年には「電子書籍の売上で初めて100万部以上を売った作家」としてギネスブックに登録されているベテラン作家だ。英語圏の業界関係者の間では「自分の本を読む暇があるのだろうか?」とジョークを言われるほど刊行する作品の数が多いのだが、その達成のコツは「共著」という方法だ。

パタースンは「共著」の詳細を明らかにしていないし、共著者も秘密を守っているので推測するしかない。だが、2017年は25冊、2018年は合計30冊の新刊(児童書を含む)を発売する事実を見れば、パタースン自身が書いていないのは明らかだ。

たぶん、実際に文章を書く「作家」というよりも指導を与えて書かせるブレーン兼編集者であり、「パタースン」のブランドを率いるCEOであり、表向きの顔として活躍するスポークスマンのような存在なのだろう。何よりも重要なのは、「パタースンの名前がついた本は売れる」ということだ。

ビル・クリントンとジェイムズ・パタースンの組み合わせは意外に感じるかもしれないが、この2人をつなげた人物となると、さらに特異なのだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米特使、イスラエルでネタニヤフ首相と会談へ=イスラ

ワールド

シンガポール、宇宙機関を設立へ 世界的な投資急増に

ビジネス

英製造業PMI、1月は51.8に上昇 24年8月以

ワールド

イスラエル、ガザ南部ラファ検問所再開  初日は50
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 7
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 8
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 9
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story