コラム

トランプ暴露本より「アメリカの本音が分かる」話題の3冊

2018年01月30日(火)11時45分

magSR180130-2.jpg

ハーバード大学の初期の学長を務めたインクリース・マザーは神権政治家であり、「終末預言」を文字どおりの真実と考える清教徒でもあった。「キリストが再臨し、死者をよみがえらせ、裁きを行う」世界の終わりは「今すぐにでも起こる」と説いた。マザーは悪名高いセーレムの魔女狩り裁判にも関わったことで知られる。「アメリカは宗教過激派によって創造された」のだ。

しかし、このマジカルな発想があるからこそ、アメリカではハリウッドの映画産業やディズニーが誕生し、人類を月に送ることができたとも言える。本書のタイトル「ファンタジーランド」そのものだ。一方でインチキ医療やドラッグの蔓延、さまざまな陰謀説も生まれた。

現在のアメリカではリアリティー(現実)よりフィクションが多い「リアリティー番組」が流行しているが、大統領選で拡散されたフェイクニュースは、現実と乖離したリアリティー番組の「リアリティー」と同じようなものだ。情報の受け手が、「信じたいものを信じる権利がある」と決めれば、それが「真実」になる。

アンダーセンは本書で「最近では、メインストリームという言葉は侮蔑語になり、エリートによる偏見、嘘、抑圧を意味する表現として使われるようになった」と指摘している。

絶望的な状況のようにも感じられるが、保守とリベラルの双方の著名人の講演を運営してきた知人は「トランプ政権の誕生はアメリカが軌道修正するための必要悪かもしれない」と言う。

堂々と嘘をつき、独裁政権への憧憬を口にする大統領への危機感から、昨年前半にはディストピア小説の古典、ジョージ・オーウェルの『1984年』やマーガレット・アトウッドの侍女の物語がベストセラーになった。多くの読者は、これらの古典を読んだことがなかった若者だ。

嘆きと怒りが原動力に

『侍女の物語』の舞台は、キリスト教原理主義者による軍事クーデターで独裁政権となった架空の未来だ。この新国家では、妊娠可能な女性は「侍女」として子供を産む道具として扱われ、名前もなければ自由もない。現代の女性にとってはただのフィクションだが、建国時からキリスト教原理主義が強いアメリカでは、73年の連邦最高裁「ロー対ウェード判決」まで人工妊娠中絶は違法だった。残念なことに、それを覚えているのは高齢層だけになっている。

キリスト教右派は長年この判決を覆すことを狙っており、民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンやフェミニストはその危機を訴えていたが、若い女性は耳を傾けなかった。

【参考記事】東野圭吾や村上春樹だけじゃない、中国人が好きな日本の本

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領と電話会談を模索=米関税巡る対応で

ビジネス

独2月鉱工業受注は前月比横ばい、予想下回る 米関税

ワールド

韓国大統領罷免、6月3日選挙か 尹氏「申し訳ない」

ビジネス

イオンの25年2月期、営業減益に下方修正 物価高が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story