コラム

ソーシャルメディアはアメリカの少女たちから何を奪ったか

2016年04月19日(火)16時15分

 セールスが取材した少女たちは、中学生の頃から、同級生の少年にヌード写真を要求されても怒らず、平気で笑い飛ばすことを学ぶ。そして、「恋」を期待しないことも受け入れる。でないと、男の子たちから物分かりが悪い女だと軽蔑され、仲間外れにされるからだ。ソーシャルメディア時代の少女たちは、「いいね」という承認を沢山獲得しないと、愛されていないと感じる。

 何よりショックだったのは、彼らが「ピザを食べて、映画館に行って、手を握る」といったデート体験をする前に、いきなり「ヌード写真を送る」とか「勃起したペニスの写真を送る」といったネットでのやり取りを始め、いきなりポルノ映画のようなセックスをすることだ。もちろん、セールスはセンセーショナルなケースを選んで紹介しているのだろうが、この中には、超有名私立高校に通う優秀な少女たちも含まれており、社会経済的な差はあまりないようだ。

 こういった体験や目撃談しか知らない少女たちは、セールスに「男はみんなfuckboy(性差別的な言葉遣いで、女性を性の対象の消費物としか思っていない男性)」と言う。セールスが、「何%の少年がfuckboyだと思うか?」と彼女たちに尋ねたところ、1人は「100%」と即答した。その友人は、「違うわ、90%よ」と反論し、「残りの10%の男の子をどこかで見つけることを祈っている」と言うのだが、「今までに出会ったのは全部fuckboyだったわ」と打ち明けた。彼女たちは、ふつうの恋に憧れているが、それは叶わない夢だとも思っている。

 非常に興味深いのは、十代の少女たちが、自分の親より年上かもしれない50歳のセールスに赤裸々なことまで打ち明けていることだ。そして、ふつうの恋やデートの体験があるセールスを羨ましく思っている。

 また、少女たちには、自分がソーシャルメディアの依存症だという自覚があり、性の対象として粗末に扱われていることにも薄々気付いている。「ソーシャルメディアに人生を破壊されている」と嘆くのだが、自分一人で離れられるほど強くはない。

 子どもたちは、意外と客観的に自分たちが置かれている危険な状況を分析している。でも、自分たちが自主的にこの状況を改善するのは無理だということも自覚していて、心の中で助けを求めている。実は、親の世代に立ち入ってもらいたいのだ。

 やはり大人たちは、「今時のティーンエイジャーがやっていることだから」と物分りよくならずに、悪者になる覚悟で踏み込み、彼らを守ることが必要だ。そう認識させてくれる本だ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story