コラム

国石「ヒスイ」が生まれる東西日本の境界を歩く

2021年09月17日(金)16時20分

◆東西日本の境界線

A1_03731.jpg

限界集落の廃墟

A1_03744.jpg

シェルティが店番するヒスイを売る土産物店

ヒスイ峡を後にして、いよいよ里に下る。途中、また一つ限界集落があった。こちらには崩れかけた廃墟もあり、峠の手前のあった"静寂の村"よりもさらに寂寞感が強い。世界的に貴重な名所の直近の村がこうも衰退している現実を目の当たりにすると、コロナ前の「インバウンド」に湧いた世相とはなんだったのかと首を捻らざるを得ない。ヒスイ峡周辺で人の気配を感じたのは、国道に合流する手前の集落の郵便局と山菜加工場、そして、人懐こいシェルティ(シェットランド・シープドッグ)がいるヒスイを売る個人商店くらいであった。

国道に出ると道は平坦になり、これまでの山岳風景に代わって米どころ・新潟らしい田園風景が広がった。しばらく進むと、姫川の支流の根知川沿いに、フォッサマグナ西端の「糸魚川―静岡構造線」の断層を見ることができる「フォッサマグナパーク」がある。フォッサマグナを視覚的なイメージとして捉えることができる野外展示である。それは即ち、東日本が乗っている北アメリカプレートと、西日本のユーラシアプレートの境界線である。東日本と西日本の境界だとも言える。

フォッサマグナパークに至る遊歩道には、東西日本の文化の違いをクイズ形式で伝える看板がいくつか立っていた。曰く、「西日本の灯油缶は青色。東日本は?(答え・赤)」「西日本は昆布出汁。東日本は?(答え・鰹出汁)」「西日本では、おむすび。東日本は?(答え・おにぎり)」などなど。こうした文化的な違いが、地質的な境界に即しているのが興味深い。地球の営みと人間の営みはどこかでリンクしているのだろうか。

A1_03800.jpg

フォッサマグナパークの野外展示。向かって右の赤っぽい地層が東日本、左の白っぽい地層が西日本

A1_03795.jpg

ユーラシアプレートと北アメリカプレートの境界付近の光景。手前は根知川にかかる大糸線の鉄橋

◆最終回へとつなぐ無人駅へ

A1_03830.jpg

国道から港の方向を望む

A1_03838.jpg

国道沿いにはヒスイの原石を売る店も

A1_03846.jpg

ヒスイの国石指定を伝えるポスター

フォッサマグナパークを後にした時には夕方の4時を回っていた。朝7時前にスタートして、歩行距離は過去最高の28kmに迫っていた。もう一息体力と気力を振り絞り、フォッサマグナ・ミュージアム手前の大糸線・頸城大野(くびきおおの)駅を目指して国道を進んだ。ヒスイの加工場や販売店がある一角を過ぎると、現代の地域産業を代表する港のセメント工場のシルエットが河口方向に見えた。

頸城大野は、田畑と里山に囲まれた小さな無人駅だった。次回はいよいよ最終回。ヒスイ海岸を目指して糸魚川市街を歩く。

A1_03891.jpg

ゴールの頸城大野駅

map3.jpg

今回歩いたコース:YAMAP活動日記

今回の行程: 平岩駅 → 頸城大野駅(https://yamap.com/activities/12647587)※リンク先に沿道で撮影した全写真・詳細地図あり
・歩行距離=28.4km
・歩行時間=10時間48分
・上り/下り=1021m/1237m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story