旧道からの県境越えで出会った「廃墟・廃道・廃大仏」
◆流麗なアーチ橋
1km余りのトンネルが一瞬途切れる形で2本連続していたのだが、1本目の歩きで懲りて2本目の手前で脇道に離脱。すると、3つのアーチを描く流麗な橋が現れた。たもとの看板には「土木学会推奨土木遺産・姫川橋」とある。太平洋戦争前夜の鋼材のない中で、長野県の技師・中島武氏の創意で設計された世界初の鉄筋コンクリート製ローゼ橋の一つだという。「ローゼ橋」とはアーチ橋の一種で、滑らかなアーチを垂直の縦の柱(補剛桁)が支える構造になっている。今の目で見てもモダンな印象を与えるデザインだ。喧騒の国道を離れ、人影のない裏道にひっそりとかかる様には、神秘的な印象すら受けた。
アーチの曲線美を横目に川沿いの旧道を進むと、今度は岩盤むき出しの風情ある短いトンネルが出現。中に入ると、洞窟のようにひんやりとしていた。これもまた、ディープな昭和のモダニズムを感じさせる建築遺産である。トンネルの先の交差点の分かれ道は廃道になっていて、スノーシェッドの下が何台もの除雪車が連なる車庫になっていた。真夏の光景からは想像しにくいが、ここは日本有数の豪雪地帯である。
◆過疎地の食糧問題
旧道の道幅はどんどん狭くなり、草むしてくる。途中で舗装が途切れる箇所もあった。兎にも角にもなんとか道はつながり、無事北小谷(きたおたり)の集落に到着。その外れの国道との再合流点に、道の駅があった。かつて過疎地の村を支えていたのは個人商店や個人経営のガソリンスタンド、バス路線などだったが、マイカー時代の今はコンビニか道の駅が村の中心、という地域が多い。
裏道を選んできたせいもあって、ここまで飲食店はおろか、コンビニも自販機すらもなかった。持参した水以外には飲まず食わずだ。道の駅の看板が砂漠のオアシスに見えた。しかし、施設のメインエントランスに回ると、なんと「本日休業」の看板。まさか最後の頼みの綱の道の駅まで閉まっているとは。さすがに自販機はあったので、水分だけは補給できたのだが・・・。
先に種明かしをすると、この後も店なし・自販機なしが続き、最後まで何も食べられず。ゴールの無人駅では南小谷方面に戻る汽車は2時間待ち。早朝から20km歩いて何も食べていないのはさすがにシャレにならない。背に腹は変えられないと、先に電車でゴールの町に入るのは反則だと思いながらも、先に来た糸魚川行きの汽車に乗った。そして、なるべく糸魚川の町を見ないように伏し目がちに駅前を探索するも、地方都市お決まりのシャッター街で、開いている店は一軒もなし(コロナ休業も手伝ったのだと思う)。結局、閉店間際の駅構内のコンビニで一つだけ残っていたパスタを食したしだい。
「便利すぎる日本」の象徴だったコンビニと自販機ですら、衰退を続ける地方の過疎地では、既に過去のものとなりつつある。コロナ禍を割り引いても、もはや日本国内であっても、ノープランで旅をするのはリスキーだと思い知らされた。
◆恐竜化石と土石流災害のモニュメント
食事にありつけなかった「道の駅おたり」だが、収穫もあった。ここは温泉施設つきの道の駅なのだが、施設裏手の広場に巨大な恐竜のステンレス像が建っていた。2足歩行の肉食竜の親子と、親恐竜と戦う翼竜。リアルと漫画チックの中間の、藤子漫画に出てきそうなデザインの恐竜たちだ。地層が表出しやすい大地溝帯にあるためか、この姫川沿いをはじめとるフォッサマグナ地帯は、恐竜化石の宝庫だ。小谷村では1994年に、この道の駅の近くで日本最古の恐竜化石とされる小型獣脚類の足跡の化石が発見された。このモニュメントは、その足跡から想像される恐竜の姿を再現したものだ。
また、足跡化石発掘の2年後の1996年12月に、この先の県境付近で大規模な土石流災害(蒲原沢土石流災害)が起きており、恐竜像にはその復興記念の意味も込められているそうだ。ただ、残念ながらそうした説明は像の周囲には見当たらず、施設も閉まっていたため帰宅後にネットで調べたしだい。その際も道の駅のHPには記述がなく、地元にとって大事な意味を含むせっかくのモニュメントが、もったいない気がした。
件の土石流災害があった蒲原沢(がまはらざわ)は、姫川に注ぐ長野・新潟県境を流れる渓流。災害当時は冬で、大雪に続く急激な気温上昇によって水が前年の夏の大雨でできた上流の崩落面に染み込み、土石流となって流れ落ちた。これにより、国道の県境にかかる最下流部の「国界橋」(前年夏の大雨で流されていた)の架け替え工事に従事していた流域の作業員14名が死亡、9名がけがを負った。この悲劇の記憶は、この恐竜モニュメントのほかに、後年完成した国界橋のたもとにある慰霊碑によって受け継がれている。また、蒲原沢上流の土石流発生現場近くには148号の旧道にかかる旧国界橋があり、その新潟県側のたもとには、今も土石流の監視小屋が稼働している。
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