コラム

旧道からの県境越えで出会った「廃墟・廃道・廃大仏」

2021年08月26日(木)16時52分

◆流麗なアーチ橋

A1_07384.jpg

美しいアーチを描く世界初の鉄筋コンクリート製ローゼ橋

1km余りのトンネルが一瞬途切れる形で2本連続していたのだが、1本目の歩きで懲りて2本目の手前で脇道に離脱。すると、3つのアーチを描く流麗な橋が現れた。たもとの看板には「土木学会推奨土木遺産・姫川橋」とある。太平洋戦争前夜の鋼材のない中で、長野県の技師・中島武氏の創意で設計された世界初の鉄筋コンクリート製ローゼ橋の一つだという。「ローゼ橋」とはアーチ橋の一種で、滑らかなアーチを垂直の縦の柱(補剛桁)が支える構造になっている。今の目で見てもモダンな印象を与えるデザインだ。喧騒の国道を離れ、人影のない裏道にひっそりとかかる様には、神秘的な印象すら受けた。

アーチの曲線美を横目に川沿いの旧道を進むと、今度は岩盤むき出しの風情ある短いトンネルが出現。中に入ると、洞窟のようにひんやりとしていた。これもまた、ディープな昭和のモダニズムを感じさせる建築遺産である。トンネルの先の交差点の分かれ道は廃道になっていて、スノーシェッドの下が何台もの除雪車が連なる車庫になっていた。真夏の光景からは想像しにくいが、ここは日本有数の豪雪地帯である。

A1_07395.jpg

岩盤むき出しの裏道の古いトンネル

A1_07397.jpg

廃道のスノーシェッドに何台もの除雪車が待機していた

◆過疎地の食糧問題

旧道の道幅はどんどん狭くなり、草むしてくる。途中で舗装が途切れる箇所もあった。兎にも角にもなんとか道はつながり、無事北小谷(きたおたり)の集落に到着。その外れの国道との再合流点に、道の駅があった。かつて過疎地の村を支えていたのは個人商店や個人経営のガソリンスタンド、バス路線などだったが、マイカー時代の今はコンビニか道の駅が村の中心、という地域が多い。

裏道を選んできたせいもあって、ここまで飲食店はおろか、コンビニも自販機すらもなかった。持参した水以外には飲まず食わずだ。道の駅の看板が砂漠のオアシスに見えた。しかし、施設のメインエントランスに回ると、なんと「本日休業」の看板。まさか最後の頼みの綱の道の駅まで閉まっているとは。さすがに自販機はあったので、水分だけは補給できたのだが・・・。

先に種明かしをすると、この後も店なし・自販機なしが続き、最後まで何も食べられず。ゴールの無人駅では南小谷方面に戻る汽車は2時間待ち。早朝から20km歩いて何も食べていないのはさすがにシャレにならない。背に腹は変えられないと、先に電車でゴールの町に入るのは反則だと思いながらも、先に来た糸魚川行きの汽車に乗った。そして、なるべく糸魚川の町を見ないように伏し目がちに駅前を探索するも、地方都市お決まりのシャッター街で、開いている店は一軒もなし(コロナ休業も手伝ったのだと思う)。結局、閉店間際の駅構内のコンビニで一つだけ残っていたパスタを食したしだい。

「便利すぎる日本」の象徴だったコンビニと自販機ですら、衰退を続ける地方の過疎地では、既に過去のものとなりつつある。コロナ禍を割り引いても、もはや日本国内であっても、ノープランで旅をするのはリスキーだと思い知らされた。

IMG_8470.jpg

やっと食事にありつけると思いきや、頼みの道の駅も休業。案内されている近くの温泉施設も営業時間を過ぎていた

◆恐竜化石と土石流災害のモニュメント

A1_07454.jpg

食事にありつけなかった「道の駅おたり」だが、収穫もあった。ここは温泉施設つきの道の駅なのだが、施設裏手の広場に巨大な恐竜のステンレス像が建っていた。2足歩行の肉食竜の親子と、親恐竜と戦う翼竜。リアルと漫画チックの中間の、藤子漫画に出てきそうなデザインの恐竜たちだ。地層が表出しやすい大地溝帯にあるためか、この姫川沿いをはじめとるフォッサマグナ地帯は、恐竜化石の宝庫だ。小谷村では1994年に、この道の駅の近くで日本最古の恐竜化石とされる小型獣脚類の足跡の化石が発見された。このモニュメントは、その足跡から想像される恐竜の姿を再現したものだ。

また、足跡化石発掘の2年後の1996年12月に、この先の県境付近で大規模な土石流災害(蒲原沢土石流災害)が起きており、恐竜像にはその復興記念の意味も込められているそうだ。ただ、残念ながらそうした説明は像の周囲には見当たらず、施設も閉まっていたため帰宅後にネットで調べたしだい。その際も道の駅のHPには記述がなく、地元にとって大事な意味を含むせっかくのモニュメントが、もったいない気がした。

件の土石流災害があった蒲原沢(がまはらざわ)は、姫川に注ぐ長野・新潟県境を流れる渓流。災害当時は冬で、大雪に続く急激な気温上昇によって水が前年の夏の大雨でできた上流の崩落面に染み込み、土石流となって流れ落ちた。これにより、国道の県境にかかる最下流部の「国界橋」(前年夏の大雨で流されていた)の架け替え工事に従事していた流域の作業員14名が死亡、9名がけがを負った。この悲劇の記憶は、この恐竜モニュメントのほかに、後年完成した国界橋のたもとにある慰霊碑によって受け継がれている。また、蒲原沢上流の土石流発生現場近くには148号の旧道にかかる旧国界橋があり、その新潟県側のたもとには、今も土石流の監視小屋が稼働している。

A1_07667.jpg

大規模な土石流災害があった蒲原沢。土石流は下に見えている堰堤を乗り越え、その先の国界橋の建設現場を襲った

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

イラン軍艦がスリランカ沖で沈没、米潜水艦が攻撃 少

ビジネス

フィッチ、インドネシア見通し「ネガティブ」に下げ 

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず

ビジネス

スイス中銀、為替介入意欲が高まる=副総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story