中国人が見た、日本人のコーヒー好き。私が教わった最高の嗜好品
YUSUKE MORITA-NEWSWEEK JAPAN
<缶コーヒーにコンビニコーヒー、そして何より、昔ながらの喫茶店。私にとってコーヒーは日本文化です>
写真に映る書籍は、およそ30年前に東京の古本屋で手に入れた『珈琲交響楽』。味の素AGF発行の全5冊の大型本で、本場ヨーロッパの「キャフェ」から美しいコーヒーカップまで、ありとあらゆるコーヒー文化が紹介されている。
コーヒー好きの私は今も時折、手に取ってはページをめくっている。
自宅ではコーヒー豆を自分で挽き、お気に入りのカップに入れて飲む。甘党なので、砂糖とミルクを入れて。
ビンテージというほどではないけれど、ウエッジウッドやロイヤルコペンハーゲンなど、『珈琲交響楽』に載るようなカップも20客ほど持っている。
ただ、私にとってコーヒーは、ヨーロッパやアメリカではなく日本の文化だ。
北京での大学生時代、日本人の友人が長城飯店(シェラトンホテル)の喫茶店に連れて行ってくれ、そこで初めてコーヒーを飲んだ。味の良し悪しは分からなかったが、一生忘れられない経験になった。
そして大阪から短期留学に来た男性が、お土産としてくれたのがインスタントコーヒー。その1瓶のネスカフェを半年かけて飲んだ。
私にとってコーヒーは贅沢の象徴、日本が教えてくれた最高の嗜好品だった。
その後、東京に来て、日本人は本当にコーヒー好きなのだと分かった。今となっては少数派だろうが、当時ランチタイムには、多くの会社員が定食屋やレストランで昼食を取った後、喫茶店に寄ってコーヒーを飲んでから職場に戻っていた。
知り合いの社長に、「これは大人のたしなみだよ」と新宿にある「凡」という喫茶店に連れて行ってもらい、高価なカップで提供される「凡のフルコース」をおごってもらったこともある。5種類のコーヒーを楽しめるコースで、なんと約2万円だった(この素晴らしい喫茶店は今もあるので読者の皆さんもぜひ)。
大手メーカーのインスタントコーヒーから、店主が1杯1杯丁寧に淹(い)れる喫茶店まで、私にコーヒーを教えてくれたのは日本人だった。
考えてみると1969年に缶コーヒーを開発したのも日本人だったし、安くておいしい日本のコンビニコーヒーには外国人も驚いている。日本のコーヒー文化はかくも多様で、奥深いのだ。