コラム

中国人も日本メディアを見ています

2020年05月22日(金)15時20分
周 来友(しゅう・らいゆう)

写真はイメージです D3SIGN-MOMENT/GETTY IMAGES

<日本の中国報道には「黒中」が多く、確かに偏向しているが、中国人にとって必ずしも悪い情報とは限らない>

緊急事態宣言が解除されぬまま、ゴールデンウイークが明けた。多くの店舗はまだ休業中で、収入が減った人も少なくない。テレビ局や制作会社との取引が多い私の会社もなかなか大変だ。

そんなわけで、新型コロナウイルスのことが頭から離れない中、またコロナ関連で恐縮だが、今回はこんな話をしたい。コロナ禍を機に考える、日本の中国報道が持つ意外な役割についてだ。

日本でもここにきて「武漢の研究所がウイルスの発生源か!?」といった、中国に対するネガティブな報道が目立つようになってきた。それを見た中国人の間では、「3カ月前まで、加油(頑張れ)と応援してくれていたくせに!」と腹を立てたり、中国版LINEである微信(ウェイシン、WeChat)上で「日本のマスコミは『黒中(ヘイチョン)』(中国をディスること)ばかりで、いい面を報じようとしない」と不満を吐き出す人が増えている。

しかし、私はむしろ感謝すべきではないかと思う。意外に思われるかもしれないが、こうした「偏向報道」は逆に中国人にとって役に立つ情報なのだ。

もちろん、日本の報道がフェアなどと言うつもりはない。「黒中」は今に始まったことではなく、エレベーターのドアを蹴破ってシャフトに落ちてしまった人や、狭い隙間に入って出られなくなった子供を面白おかしく報じたり、経済成長率が数%落ちただけで中国経済は崩壊すると騒いだりと、例を挙げればキリがない。中国をたたいたほうが数字が取れるからであり、それは日本メディアの問題点でもある。

では、そうした報道姿勢に疑問を感じている私が、それでも日本の中国報道が中国人の「役に立つ」と言うのはなぜか。

それは、外国メディアの報道がなければ、中国人が自国に対してバランスの取れた見方をできなくなるからだ。中国政府系メディアによる自画自賛の「厉害了我的国(すごいぜ中国)」的報道ばかり見ていても、何の役にも立たない。せっかく各国から優秀な記者が中国に集まっているのだから、どんどん批判的に報じてもらいたいのだ。

ネットが検閲されている中国では、以前は外国メディアの報道内容を知るのは容易ではなかった。海外の一部のサイトにアクセスするには「壁越え」をしなければならないが、それには、それなりのお金と技術的な知識が必要だったからだ。

しかし今は、海外在住の中国人が微信でどんどん情報をシェアしていく。当局に投稿を消されても、あっという間に拡散されるので、削除が追い付かず、みんな読んでしまう。

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