コラム

「米イラン危機」にイラン出身の私がコメントする難しさ

2020年01月31日(金)16時30分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

報道機関の中には、あおりながら強引に発言を引き出そうとする人もいた HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

<繊細で複雑な問題について、誤解を避けるために語ることはしなかった......正しい対応だったのかは分からないが、悩み抜いた末に得られた教訓もあった>

皆さんご存じのように、昨年末からキナくさい雰囲気だった中東で新年早々に事態が急変した。アメリカがイランのガセム・ソレイマニ革命防衛隊司令官を襲撃し殺害、イランは素早く報復攻撃──。世界が緊迫した。私がこの原稿を書いている時点では、報復攻撃に対するアメリカ側の声明により、ひとまず双方手打ち、一段落という状態。出自がイランの日本人の私も一安心である。

言っても詮無いことだが、イランで生まれたという出自は、私が日本人になっても一生付いてくる。このたびのアメリカとイランの一触即発の事態を受け、複数の報道機関から取材のアプローチをいただいた。取材の趣旨としては、イラン人としての日常生活、この事態を受けて思っていることや困っていること、元イラン人としての立場や考えを聞きたいというものが多かった。

問い合わせをしてくれた方々に、逆にメディアの現状や対応について話を聞いてみたところ、どの報道機関も丁寧に状況を教えてくれた。さまざまな海外メディアからペルシャ語の速報が飛び交い情報が錯綜していること、緊迫した現地の情報がとても乏しいこと、日本在住のイラン人に取材を頼んでいるが誰も受けてくれず困っていること──。

どの話もとても気の毒だった。私にできることであれば少しでも協力したかった。だが、取材を断ったイラン人と同様に、私も残念だがお断りをした。

イランとアメリカの衝突について語ることは困難を極めるし、とても繊細で複雑なためイラン人だけではなくあらゆる立場の人に誤解を受けやすい。今や日本人になったとはいえ、イランにルーツを持つ私にとって、知っていることや思いを発言するチャンスだと考えることはできなかった。

周囲から、私は好き勝手に言いたいことを言っていると思われがちだ。この連載やソーシャルメディア上では、とても自由に発言させていただいている。今は会社に雇用されているわけではないので、上司や同僚、部下に気を遣うこともない。そういうイメージを持たれがちな私だが、だからといって周囲に配慮を怠っていいとは思っていない。

アプローチしてきた報道機関の人の中にも、社長さんでしょ? 困っていることがたくさんあるでしょ? 好きなこと言えるでしょ? とあおりながら強引に発言を引き出そうとする人もいた。そのあおりに乗りたい気持ちを抑えながら、深夜の取材をねぎらい電話を切った。

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