コラム

マクロン新党の勝利の意味

2017年06月22日(木)17時00分

こうした伝統的な政党が軒並み支持を失い、マクロンやルペン、メランションの台頭を許したのは、伝統的な政党が問題解決の手段を提示することが出来なかったこと、また、それは現在フランスが直面している問題が、これまでのようなイデオロギー的な問題ではなく、現実にグローバル化とどう向き合い、どのように対処していくのかということに焦点が当たっているにもかかわらず、単純な一国主義的な解決や、旧来の枠組みの中で自らの政治的野心を実現しようとする傲慢さに映ったことが原因と考えられる。

つまり、今回の大統領選、国民議会選挙で明らかになったのは、これまでの政治エスタブリッシュメントの現状認識の甘さと傲慢さ、それに対する有権者の失望、そして危機的な状況に置かれているにもかかわらず、自己変革することが出来なかった政党政治の姿である。

政治が一部エリートの独占的な所有物となり、国民がどのように抵抗しても、その仕組みは動かず、また政権に対して批判的な知識人や評論家でさえ、エスタブリッシュメントの側にいるとみられるような状況になっている。

これは「ルペン現象」だけがポピュリズムなのではなく、ルペンもマクロンもメランションもポピュリスト的な環境の中で勢いを得た政治家であることを示唆している。マクロンが勝利したのは、この三人のポピュリストの中でもっとも穏健で、もっとも信頼できる存在に見えたからであり、もしマクロンがいなければ、ルペンとメランションが政治をリードする状況であった、と言えよう。

実際、社会党からも共和党からも選挙期間中にマクロン大統領を支持することで選挙戦を有利に戦おうとする動きが活発となり、両党ともそうした背信的行為に対して制裁を加えようとしたが、それすら実現しないほど力を失っており、国民の意識はこれらの既存政党から離れていったことを如実に示していた。

言い換えれば、今回の大統領選、国民議会選挙はいずれも既存の政党、既存のエスタブリッシュメントに対する反発であり、これまでの政党政治のあり方を否定する選挙であったと言えよう。故にマクロンが大統領選で勝利したことを受けて、彼の政策を消極的にでも支持する人々が国民議会選挙でも「共和国前進」に投票し、マクロンの政治に何はともあれ期待した、ということが言えるだろう。それは図1に見られるような、大統領選挙の第一回投票と国民議会選挙の第一回投票の票差にも表れていると思われる。


図1 大統領選第一回投票と国民議会選第一回投票の各候補とその所属政党の得票数
DCHE9sxXkAApILK.jpg出典)https://twitter.com/mathieugallard/status/874196099178909699

これを見る限り、マクロンが第一回投票で獲得した票数と「共和国前進」および「民主運動」が獲得した票の差は133万票とそれほど大きくないのに対し、ルペンの得票と「国民戦線」の得票は469万票近く、またフィヨンと「共和党」及び中道右派は233万票、メランションと「不屈のフランス」および「共産党」の差は395万票と非常に大きい。

得票数の絶対値であるため、国民議会選挙で棄権が多く、総投票数が少なかったことを考えると、マクロン/共和国前進・民主運動の落ち込みは小さいことが目立つ。また左右の極に位置するルペン/国民戦線とメランション/不屈のフランス・共産党が大きく票を失っているところを見ると、個人としての大統領候補に魅力は感じるけれども、政党としては左右の極に位置する政党に信頼を寄せることは出来なかったこと、また、大統領選でマクロンが当選したことで、政権運営を容易にするためにも中道寄りの政党に票が集まったとも言えるだろう。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦でエジプトの役割を称賛 和平実

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏と17日会談 ウ当局者も

ワールド

トランプ氏、イランと取引に応じる用意 「テロ放棄が

ビジネス

JPモルガン、最大100億ドル投資へ 米安保に不可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story