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女子高生の合宿中、「禁断の遊び」がバレて「吊し上げの刑」に...北朝鮮、過酷な刑罰の実態

北朝鮮の学校に通う生徒

Torsten Pursche/Shutterstock

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は5日、北朝鮮の人権の実態をまとめた報告書を公表した。拘禁施設、表現の侵害、食糧問題などを取り上げ、北朝鮮に説明責任と措置を求めた。

■【関連記事】北朝鮮、幹部の「ご令嬢」女子高生ら20人が見せしめの刑に処された「禁断の遊び」

2022年11月から2024年10月31日までの北朝鮮の人権状況を扱ったこの報告書には、脱北者175人が証言した強制失踪、拉致、海外に派遣された労働者の強制労働、女性の人身売買などに関する内容が盛り込まれている。

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

報告書は、「反韓流三法」と言われる反動思想文化排撃法、青年教養保障法、平壌文化語保護法も取り上げ、これを根拠にして死刑など刑罰の重罰化が行われ、表現の自由に対する抑圧がエスカレートしているとも指摘した。いずれも、国家に「表現の自由と情報アクセスの権利を保護」することを義務付けた、世界人権宣言と自由権規約第19条に反する行為だ。

これら三法のうち、最高刑を死刑と定めているのは反動思想文化排撃法と平壌文化語保護法の二つだ。前者は韓流コンテンツの取り締まり、後者は韓国式の話し方の規制に重点を置いている。

特に異様なのは後者の第35条だ。


第35条(公開闘争による教養)

社会安全機関をはじめとする該当法機関は、資料暴露や群衆闘争集会、公開逮捕、公開裁判、公開処刑などの公開闘争を様々な形式と規模で正常に行い、腐りきった傀儡文化に汚染された者どもの気を打ち砕き、広範に群衆を覚醒させなければならない。

法の条文に「公開処刑」と明記するのは、北朝鮮においても極めて珍しい例だ。

筆者の知る限り、同法に違反したとして、実際に死刑になったという話はまだ出ていない。だが2023年の4月、スポーツ合宿中の娯楽会で「しりとりゲーム」をした女子高生ら20人が吊し上げられた事件があった。「オトナ」のいない自分たちだけの空間で楽しんでいたのだが、思い出に動画を撮影していた生徒の携帯電話がたまたま安全員(警察官)に没収されたことで、発覚してしまったのだ。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

死刑こそ免れたものの、刑罰は苛烈だった。

当局は、駅前広場に国営企業や団体の職員、学校の生徒などを動員した上で、公開暴露の集いで吊し上げにし、娯楽会に参加した者、韓国式の言葉が使われたことを知りながら通報しなかった者を含め、被告となった生徒20人に3年から5年の労働教化刑(懲役刑)の判決を下した。

死刑にはならなかったとは言え、たかが「しりとりゲーム」で懲役とは重すぎる罰だ。

OHCHRの報告書は、こうした「犯した罪」に釣り合わない重罰も問題視している。しかし金正恩総書記が韓国への敵視を強め、その影響を一掃を期している状況を考えれば、こうした傾向は今後もひどくなる一方だと思われる。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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