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国際移住者デー

すべての移住者とつくる共生社会のために──国連IOM駐日代表が語る世界と日本の「人の移動」

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2024年12月18日(水)09時00分
文:安藤智彦

人材不足の日本も、外国人との共生というテーマの当事者

ナッケン自身は、20年以上にわたり国連機関でキャリアを築いてきた。外務省が国際機関へ若手日本人を派遣するJPO制度を通じてフィジーに駐在したのを皮切りに、イタリア、エチオピア、ベトナム、スリランカ、モルディブ等で複数の国連機関で勤務し、満を持して国連IOMの駐日代表に就任した。

「これまでのキャリアで人口問題や難民問題に関わるうちに、広範なアングルで『世界の人の移動』を捉えて、脆弱な立場に置かれた移住者の保護だけでなく、移住者が織り成す社会貢献にも光を当てる国連IOMのミッションに、強い魅力を感じるようになったのです」

駐日代表として日本で仕事をするにあたって、国や地域が移民とどう向き合い、共生社会を作っていくかに強い関心がある、とナッケンは力を込める。

「少子高齢化と人材不足が進む中、経団連が『Innovating Migration Policies~2030年に向けた外国人政策のあり方』を提言するなど、日本も国際移住や外国人との共生というテーマの当事者であることは間違いありません。これは世界中で論争になりやすい課題ですが、様々なバックグラウンドの人々が皆で幸せを実感できる社会の実現は、日本全体の未来のためにも重要です。

今年6月時点で、日本には358万人の外国人が暮らしていますが、移住労働者の需要はこれからも増えていく見込です。日本社会がどうしたら移住者と一緒に未来をつくっていけるのか、国連IOMの知見を活かして、少しでもよりよい方向に進むために貢献できたらという思いは強くありますね」

バングラデシュの災害が多い地域の難民キャンプで暮らす難民に対する防災研修の様子

バングラデシュの災害が多い地域の難民キャンプで暮らす難民に対する防災研修の様子©︎Jun Hori (8bitNews)


12月18日は、世界の人の移動に目を向ける「国際移住者デー」

その視線を培ってきたのは、20年来過ごしてきた海外での実体験だ。

「海外で暮らしていた頃は、私自身も移民でした。そして、社会に必要不可欠なサービスを海外からの移住労働者が担っている様子を各地で目の当たりにしました。スリランカでは移民の医師や看護師が地域医療を担っていたり、モルディブでは大勢のインド系の教員が活躍していたり、そうした事例を他のたくさんの国で見てきました。

今日の日本も、ほとんどの業種や職業で彼らの尽力なしには経済や社会が回らないし、彼らもそれにやりがいを見出している。移民と聞くと、治安が悪化するだとか、社会保障に負荷が掛かるとかイメージする方もいますが、データでは全く裏付けられていません。その国や地域によって最適解は異なると思いますが、うまく調和のとれた共生社会を築いていきたいですね」

ナッケン鯉都

そんなナッケンが、心のよりどころにしている言葉がある。現在のアフガニスタンで生まれた13世紀の哲学者、ジャラール・ウッディーン・ルーミーの残した一節だ。以下に引用する。

"Out beyond ideas of wrongdoing and rightdoing, there is a field. I'll meet you there."
(善行や悪行という観念を超えたところに、草原がある。私はそこで、あなたと会おう。)

「特に近年はソーシャルメディアの影響もあり、いろいろな社会課題に関して善悪の両極端の議論が起きやすく、時に政治化してしまうこともあります。でも、物事にはグラデーションがあり、ゼロかイチかでは答えにたどり着けないこともたくさんあります。この言葉は、多くの人の声に耳を傾けながら丁寧に仕事に向き合うことや、目の前の課題の解決のために俯瞰した視点を持つことの大切さを説いているようで、私が日々の業務に取り組む際の指針となっています」

12月18日は、世界の移民にまつわる課題について知り、その貢献に目を向ける「国際移住者デー」。ますます混迷の度を深める国際情勢において、安全やよりよい生活を求めて人々は移動する。移民と人の移動の課題に取り組む国連IOMの役割は、ますます増えていくだろう。ナッケンたちの日本での活動も、これから目にする機会が増えていくはずだ。

ナッケン鯉都


ナッケン鯉都(Ritsu Nacken)/国連IOM駐日代表

20年以上にわたり国連機関での任務に従事。2024年12月より現職。国際基督教大学(ICU)国際関係学士。ニュースクール大学非営利団体経営学修士。京都芸術大学大学院修士課程在籍中。日本国籍。

国際移住機関(国連IOM)
https://japan.iom.int/

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