最新記事
中国経済

中国が最大規模の景気刺激策を発表、これで泥沼から抜け出せるか──外国人投資家の見方

China Moves To Avoid Economic Setback

2024年9月26日(木)15時04分
マイカ・マッカートニー
ジョブフェアにつめかけた若い求職者たち

重慶市のジョブフェアでリクルーターを取り囲む求職者たち(2014)REUTERS/Stringer

<中国人民銀行が、不動産と株式市場をてこ入れするパンデミック以来最大の金融緩和策を打ち出したが、肝心の「外科手術」は手付かず>

世界2位の経済大国・中国が、現在の景気低迷から抜け出すために、新型コロナウイルスのパンデミック以来最大規模の景気刺激策を発表した。

中国人民銀行は9月24日、市中銀行の預金残高のうち中央銀行への預け入れる資金の比率を示す「預金準備率」を引き下げて、事実上、消費者や企業への融資にまわせる資金を増やす措置を発表。潘功勝総裁は、この措置により金融市場に1兆元(約1420億ドル)相当の長期流動性が供給されると述べた。

さらに中国人民銀行は、市中銀行に資金を供給するための中期貸出制度(MLF)の貸し出し金利を2.3%から2.0%に引き下げると発表した。引き下げは2024年7月以来、2カ月ぶりだ。

一連の刺激策は、8月に約9年ぶりの大幅な価格下落を記録した不動産不況への対策でもある。潘功勝は不動産支援の一環として既存の住宅ローンの金利引き下げを発表した。

これで中国の1億5000万人の住宅所有者の可処分所得が増えることになる。中国では家計資産の約70%が不動産だが、何年も前に支払いを済ませたものの住宅が完成していない「未完成物件」の問題などが消費の足を引っ張っている。

国際的な金融サービス企業は中国の成長率予測を引き下げている。ゴールドマン・サックスとシティグループは、2024年の中国の成長率予測をそれぞれ0.2%と0.1%引き下げ、4.7%に修正した。

「質の高い発展」はまだ遠い?

中国は2024年第1四半期の実質経済成長率を前年同期比5.3%と発表し、2年連続で通年の経済成長率の目標を「5%前後」に設定している。だが李克強元首相など中国経済に詳しい多くの人が、中国の公式なGDP統計の正確性に疑問を呈している。

ゴールドマン・サックスのアナリストは先週発表のレポートの中で「輸出が好調な一方で不動産市場が不振で消費も低迷しているため、(中国の)成長率は5%の目標に達しないのではないか。今年の成長率は4.7%と予想する」と述べていた。

不動産部門のバブル崩壊に新型コロナウイルスの流行と厳しいゼロコロナ政策によって景気が減速した中国は近年、成長目標を控えめな水準に抑えている。だが2022年末にロックダウンが解除された後も、消費者の信頼感が低迷し若者の高い失業率が足かせとなり、本格的な景気回復に苦慮している。

習近平国家主席は、無理に急速な成長を追求するよりもグリーンエネルギーのような国家主導の戦略的産業を優先する「質の高い発展」への転換を強調している。

英オックスフォード大学中国センターの研究員でエコノミストのジョージ・マグナスは、今回の大規模な金融緩和がいくらか救済となり、GDP成長率をわずかに押し上げる可能性はあると指摘。また中国人民銀行が株式市場に8000億元の流動性支援を実施すると決定したことは、「信頼感を高めるための本気の取り組み」だと分析した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏に「勝利計画」提示 会談

ビジネス

独VW、通期利益率見通しを下方修正 乗用車部門の業

ワールド

西側はロシアの欧州飛び地を孤立化、プーチン氏側近が

ビジネス

アジアで未上場株式取引の増加期待、米利下げと中国景
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
2024年10月 1日号(9/24発売)

被災地支援を続ける羽生結弦が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 2
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断された手足と戦場の記憶
  • 3
    白米が玄米よりもヘルシーに
  • 4
    中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそ…
  • 5
    プーチンと並び立つ「悪」ネタニヤフは、「除け者国…
  • 6
    中国が最大規模の景気刺激策を発表、これで泥沼から…
  • 7
    爆売れゲーム『黒神話:悟空』も、中国の出世カルチ…
  • 8
    野原で爆砕...ロシアの防空システム「Buk-M3」破壊の…
  • 9
    「ターフ/TERF」とは何か?...その不快な響きと排他…
  • 10
    50年前にシングルマザーとなった女性は、いま荒川の…
  • 1
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感...世界が魅了された5つの瞬間
  • 2
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 3
    がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がんだけを狙い撃つ、最先端「低侵襲治療」とは?
  • 4
    白米が玄米よりもヘルシーに
  • 5
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断さ…
  • 6
    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサ…
  • 7
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 8
    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…
  • 9
    NewJeans所属事務所問題で揺れるHYBE、投資指標は韓…
  • 10
    先住民が遺した壁画に「当時の人類が見たはずがない…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 9
    無数のハムスターが飛行機内で「大脱走」...ハムパニ…
  • 10
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中