最新記事
遺跡

先住民が遺した壁画に「当時の人類が見たはずがない生物」が描かれていた「謎」...南ア大学チーム

Mysterious Rock Art May Depict 'Strange' Animal From 250 Million Years Ago

2024年9月22日(日)13時05分
アリストス・ジョージャウ

「ディキノドン類の下向きの牙は、ホーンド・サーペント・パネルの動物の牙と似ている。サン族が化石を発見して長距離移動させていたこと、また、驚くほど正確に化石を解釈できたことを直接裏付ける考古学的証拠もある。もしサン族がディキノドン類の頭蓋骨の化石を、かつて存在した動物のものだと識別できたのであれば、ディキノドン類の牙のある顔が、サン族の壁画に描かれた可能性はある」

ブノワは、ラ・ベル・フランス遺跡を訪れたとき、壁画に描かれた牙を持つ生き物が、ディキノドン類の化石とよく似ていることに気がついた。この解釈は、サン族の神話にも裏付けられている。サン族の神話には、かつて一帯に生息していたが、すでに絶滅した大型動物が登場する。

「発見」の科学的な意義と文化的な意義

論文にも書かれている通り、ほかの解釈の余地はあるものの、ディキノドン類の仮説が最も有力で、複数の証拠によって裏付けられている、とブノワは述べている。

ブノワは本誌の取材に対し、「一帯に数多く存在し、サン族が遭遇し、この動物とそっくりだった可能性がある唯一の動物は、絶滅した動物、つまり、ディキノドン類だ」と説明する。

「サン族は、完全に架空のものは描いていない。そのため、純粋な空想は除外してもいいだろう。彼らの芸術は現実の要素、主に動物をモチーフにしていた。セイウチは除外できる。なぜなら、セイウチがサハラ砂漠以南のアフリカに生息したことはないためだ。サーベルタイガーも除外できる。その化石は希少で、一帯では発見されていないためだ。そのほかの牙を持つ動物は、単純に一致する部分がない」

もし壁画の生き物が実際に、人類がアフリカに現れるずっと前に絶滅したディキノドン類だとしたら、この壁画は、ディキノドンが初めて正式に科学的に描写された1845年より、少なくとも10年前に描かれたことになる。

ブノワは、「この発見には、2つの意味がある。1つ目は科学の歴史という側面で、サン族は西洋の科学者より早くディキノドンを発見していたことになる。これは、科学史と『発見』の概念に新たな視点をもたらす」と語る。

「2つ目は文化的な側面だ。サン族が彼らの信念体系に化石を組み込んでいたのであれば、これまで説明が付かなかった壁画の謎に、なんらかの光があてられるかもしれない」
(翻訳:ガリレオ)

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中