最新記事
荒川河畔の「原住民」③

「この選択は人生の冒険」洪水リスクにさらされる荒川河川敷のホームレスたち

2024年9月11日(水)10時55分
文・写真:趙海成

荒川河川敷のホームレス

新荒川大橋の近くにある鉄道橋の下で、救助隊員が救助訓練を行っていた

死にやすい橋を選ぶより、生きにくい道に戻ってほしい

ところで、荒川に掛かる新荒川大橋について、桂さんは私に、外国人にはあまり知られていない話を教えてくれた。

私たちの目の前にそびえる雄大な橋は、実は自殺者の多い場所でもある。橋は高く、水も深い(橋の中央の川の水は少なくとも10メートルの深さがある)ため、石を体に縛って飛び降りれば、すぐに姿を消すことができるという。助けようと思っても難しく、とても「死にやすい」場所なのだろう。

私は何度もこの橋の上を通ったことがあるが、橋を渡る人は皆、慌ただしく行ったり来たりしている。私だけがぼんやりとキョロキョロしていて、時々立ち止まって写真を撮ったりしていた。

聞いたところによると、お節介好きなドライバーは車で橋の中央を通る際、窓の外で誰かがうろうろしているのを見つけたら、警察に通報することがあるそうだ。

思い詰めて新荒川大橋で命を絶とうとする人に、私は言いたい、死にやすい橋を選ぶより、生きにくい道に戻ってきてほしい。人は死んだら二度と生き返らないが、生きている限り、火を浴びて生き返る(中国語で「浴火重生」という)、つまり逆境から立ち直り、再び輝くことができるのだから。

桂さんが10年前にホームレスになったのは一つの冒険だったと言ったが、考えてみれば、私が今ホームレスの問題を取り上げるのも一種の冒険ではないか。

私たちの骨の中には冒険精神が宿っており、血統の中にも遠方の少数民族の遺伝子が含まれているのかもしれない。

荒川河川敷のホームレス

私たちは3人とも鼻筋が高い(左から、桂さん、筆者、斎藤さん)

シルクロードの各民族の血統について研究したことがある私の姉から、上の3人の写真を見て、連絡があった。

「今度の取材の時、鼻の高いこの2人の先祖3代はどこの人か、アイヌや沖縄の人じゃないかと聞いてみてほしい」と言うのだ。

私にはそれを聞く勇気はない。

彼らに、「あなたは、私たちのことを記録し取材してもまだ足りないのか、祖先3代までも調べ尽くすつもりか?」と言われるのが怖いのだ。


※ルポ第4話:猫のために福祉施設や生活保護を拒否するホームレスもいる...荒川河畔の動物たち に続く
※ルポ第2話はこちら:「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立てる荒川のホームレスたち

(編集協力:中川弘子)


相談窓口「日本いのちの電話」
厚生労働省は悩みを抱えている人に対して相談窓口の利用を呼びかけています。
0570・783・556(10:00~22:00)
0120・783・556(毎日 16:00~21:00、毎月10日 8:00~翌日8:00)


[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した――在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中