最新記事
韓国

ポストソウルは実現するか? 21世紀初の首都機能移転を目指す世宗市の今

2024年9月28日(土)19時00分
佐々木和義
世宗市の市庁舎

韓国国会の移転が予定される世宗市の市庁舎(世宗特別自治市提供)

<首都機能の移転に加えて、地方都市の将来像を描く役割も期待されて──>

韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の掲げた公約に第2大統領室の設置と国会移転というものがある。就任と同時に執務室と官邸を従来の青瓦台から龍山(ヨンサン)に移転した尹大統領は、韓国中西部の世宗(セジョン)市に第2執務室を建設し、国会を移転する考えを示しているのだ。

世宗特別自治市は首都機能を移転する目的で計画された中核都市で、日本の省庁に相当する部処など47の中央行政機関と16の国策研究機関、10の公共機関が移転を完了、ソウルに残る20余の政府機関のうち、外交部、国防部、統一部を除いてすべて移転する計画だ。

また国会については2021年、世宗に分院を設置する国会法改正案が通過したが、尹大統領と与党・国民の力は国会自体を移転したい考えだ。

半世紀前からの懸案だった首都移転

韓国で首都移転計画が浮上したのは朴正煕(パク・チョンヒ)政権下の1976年のことである。対北朝鮮の安全保障上の対策と首都の人口過密解消が目的だった。

首都ソウルの人口は朝鮮戦争が休戦を迎えた1953年は100万人だったが、1960年には244万人に倍増、70年に500万人を超え、75年には700万人を突破した。

しかしソウルは北朝鮮との軍事境界線から40キロしか離れていない。北朝鮮が保有する旧ソ連製通常兵器の射程圏内だが、膨大な移転費用を捻出できず朴大統領は首都移転を断念した。

ところが2002年、首都移転がふたたび浮上する。移転を公約に掲げた革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)が大統領に当選したからだ。しかし憲法裁判所が首都移転違憲判決を下して暗礁に乗り上げる。盧武鉉政権は遷都を諦め、首都機能のみ移転する苦肉の策に出る。主要都市や北朝鮮国境との位置関係などを勘案して候補地の選定が行われ、韓国中西部の忠清南道燕岐郡(チュンチョンナムドヨンギぐん)全域を中心としたエリアに新都市が作られ「世宗市」と命名された。「世宗」は

これで順調に進むかに思われた首都機能移転計画だが、続く保守系の李明博(イ・ミョンバク)政権が白紙化の方針を打ち出して宙に浮く。移転を推進したい野党・民主党(現・共に民主党)と計画見直しを主張する与党・ハンナラ党(現・国民の力)が対立するなか、与党内で力をつけてきた朴槿恵(パク・クネ)派が造反して移転推進派に同調。2012年7月1日、世宗特別自治市が発足し、朴槿恵の大統領就任と前後して移転事業が本格化する。父朴正煕が目論んだ首都移転を娘の朴槿恵が実現したわけだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 7
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中