最新記事
越境攻撃

ロシアにサプライズ侵攻したウクライナ軍の狙いは何か

Ukraine's Kursk Operation Faces Three Options: Ex-General

2024年8月13日(火)18時48分
ブレンダン・コール
国境近くを走るウクライナ装甲人員輸送車

ロシア国境に近いスームィ地域を走るウクライナ軍の装甲兵員輸送車(8月12日) REUTERS/Viacheslav Ratynskyi

突如国境を超えてロシア西部に侵攻を始めたウクライナ軍の戦略意図は何なのか、専門家が解説

ウクライナ軍が8月6日、ロシア西部のクルスク州に侵攻したことにより、ウクライナ政府は対ロシア交渉で有利になる可能性もあるが、制圧した領土を固守するという戦略は大きなリスクをはらんでいる。オーストラリア軍の元将校はそう指摘し、ウクライナが今後とり得る3つの選択肢について解説した。

【動画】国境近くを走るウクライナ戦車、ウクライナ戦車をドローンで破壊するロシア兵

ロシア西部のクルスク州とベルゴロド州では8月12日、多数の住民が避難した。ウクライナ軍が越境攻撃を開始して6日が過ぎ、ロシア領内にさらに深く侵入したことが明らかになったためだ。

ウクライナ政府は、この越境作戦について口を閉ざしている。唯一の例外はボロディミル・ゼレンスキー大統領で、8月10日にこの動きに触れ、「戦線を、侵略者の領土内部へと推し進めている」と述べた。

ロシア領に侵攻したウクライナ軍はこれから何をするつもりか、憶測が飛び交っている。オーストラリア軍を退役した元将校のミック・ライアンは、ひとつの選択肢として、ウクライナが来るべき和平交渉で、制圧したロシア領を取引材料にすること。

敵地に突き出た陣地は弱い

しかしライアンは、それはウクライナにとって「最もリスクの高い選択肢」になるという。なぜなら、敵の領土に突き出た突角陣地があると、「半人前のロシア軍司令官でもやすやすとつぶすことができる」からだ。

「このシナリオでは、多数の兵士を失う確率が高く、戦略的・政治的に不利になる」。ライアンは、8月12日付けで英字紙キーウ・ポストに掲載された論説でそう述べた。もとは、コンテンツ配信プラットフォーム「サブスタック」で発表されたものだ。

「ウクライナは、大隊と旅団だけでなく、大砲や電子戦(EW)、防空手段など、失っては困るものを失う可能性がある」

ライアンは2つ目の選択肢として、制圧した領地から部分的に撤退し、防衛がより容易な場所に移動することを挙げている。そうすれば、ロシア軍が支配地域を広げているウクライナ南東部ドンバス地方の防衛や、今後の対ロシア越境攻撃など、ほかの場所や作戦に兵力を再配置できるという。

これなら、戦略的な攻撃で得られるメリットを最大化すると同時に、戦闘部隊を失うリスクを低減できる、という。

しかしゼレンスキーには、3つ目の選択肢もある。国境まで全面撤退して、これから必要となるであろう経験豊富な戦闘部隊を温存しつつ、ロシア領内侵攻による政治的・戦略的なメリットを最大化するというものだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中