最新記事
クリーンエネルギー

サウジとUAE「ポスト石油時代」に向けた鉱業参入

NOW IT’S MINERALS, TOO

2024年6月21日(金)11時00分
クリスティーナ・ルー(フォーリン・ポリシー誌記者)
サウジには2兆5000億ドル規模の鉱物資源が眠っている(同国中部の銅・亜鉛採掘プロジェクト) TASNEEM ALSULTANーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

サウジには2兆5000億ドル規模の鉱物資源が眠っている(同国中部の銅・亜鉛採掘プロジェクト) TASNEEM ALSULTANーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<EV普及で世界の石油需要は鈍化、サウジやUAEは鉱業分野への参入を図っている>

中東ではたいていの国が石油(と天然ガス)に頼って生きている。だが一部の裕福な国は先を見越して、同じエネルギー部門でも別の資源に目を向け始めた。クリーン・エネルギーへの転換にも電動車両用バッテリーにも欠かせないリチウムやコバルト、希土類などの重要鉱物だ。

石油で稼いだ資金をため込んできたサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などは、過度な石油依存から脱却して将来への布石を打つため、重要鉱物の採掘とそのサプライチェーンへの投資を増やしている。

なにしろ今は、そうした鉱物の産出・精製で中国が過大なまでのシェアを誇り、そのせいで地政学的な緊張が高まっている。西側諸国は、もちろん中国を迂回したサプライチェーンを確保したい。中東諸国も、この機に乗じて「ポスト石油」時代への道を切り開きたい。

米中ロと同時に商売ができる

「この分野で、ぐっと存在感を増してきているのがサウジアラビアとUAEだ」と言うのは米シンクタンクの戦略国際問題研究所に所属するグレースリン・バスカラン。「両国とも、クリーン・エネルギーへの転換で世界の石油需要が先細りとなり、石油頼みの経済モデルでは成長を維持できないことを理解している」

だからサウジアラビアは石油依存からの脱却を目指す成長戦略「ビジョン2030」で、鉱物資源の開発事業に約1億8200万ドルの資金を振り向けた。ちなみに政府の試算によれば、同国には2兆5000億ドル相当の鉱物資源が眠っている。

「わが国は経済大国への転換期にある」と、鉱業資源省のハリド・アルムダイファ次官は現地メディアに語っている。「第1段階で国内の鉱物資源を開発し、第2段階で国外の資源をわが国に集め、第3段階でサウジを(資源流通の)ハブとする」

この壮大なビジョンの実現には多くの国の協力が必要になる。既に同国はコンゴ民主共和国やエジプト、モロッコ、さらにはロシアやアメリカとも鉱業部門での協力に関する覚書を交わしており、米政府と組んでアフリカ諸国での採掘権を取得する交渉を始めているとの報道もある。

UAEもコンゴ民主共和国での採掘事業に関する総額19億ドルの契約を結び、銅資源の豊富なザンビアとも同様の合意に近づいている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中