「放火魔消防士」との声も...解散ギャンブルに踏み切ったマクロンの真意とは?
What Was Macron Thinking?
その一方、マクロンの解散宣言で左派勢力に大同団結の機運が生まれたのも事実。左派は2022年の国民議会選挙に共闘組織「新人民環境社会連合」を結成して臨んだが、うまくいかなかった。
連合結成を呼びかけたのは極左政党「不服従のフランス(LFI)」を率いるジャンリュック・メランションだったが、どうにも彼の個性が強すぎて社会党や緑の党などの反発を招き、連合は内部崩壊した。
しかし今回、マクロンの大胆さに刺激を受けた左派の諸勢力は大胆に動いた。翌日の夜には、もう互いの間で意見の相違を調整し始めた。音頭を取ったのは、カリスマ政治家ラファエル・グリュックスマンを担いで欧州議会選で躍進した社会党だ。
その昔、1935年に極右勢力によるクーデター未遂を受けて左派が大同団結して結成した「フランス人民戦線」にちなんで、LFIと社会党、共産党、緑の党(現在はエコロジー党と呼ばれる)の指導者たちは「この国の人道主義者と労働組合、市民運動を代表する新人民戦線」の創設を発表した。
そして各選挙区で右派・極右に対抗する候補者を1人だけ擁立して共闘することに合意した。共同宣言によると、目的は「マクロンに代わる選択肢を設け、極右の人種差別主義者と闘うこと」にある。
一方、既存の右派政党は揺れている。これはマクロンの読みどおりかもしれない。11日の朝、共和党のエリック・シオティ党首は極右・国民連合の要請に応じて共闘する考えを表明した。すると保守本流の自覚と自負に燃える党内の有力者たちが激怒した。
そもそも、国民連合の政策要綱は共和党の掲げる伝統的な共和主義と相いれない。シオティ自身も、今年初めには「深いイデオロギー的相違」ゆえに国民連合との共闘はあり得ないと語っていた。
翌12日には党内有力者が集まり、党首の更迭を決議した(シオティ自身は党本部に閉じ籠もって辞任を拒んでいる)。この混乱に乗じて、ルペンの国民連合も与党の再生も共和党員に、自派へのくら替えを呼びかけている。
次に考えられるのは、マクロン自身が17年の大統領選で掲げた「私を選ぶか、混乱を選ぶか」という二者択一の思考法だ。マクロンは一貫して、ルペンと国民連合は混乱を体現するものだと説いてきた。ただし、これに脅威を感じたルペンは国民連合の路線を微妙に修正している。