最新記事
フランス

「放火魔消防士」との声も...解散ギャンブルに踏み切ったマクロンの真意とは?

What Was Macron Thinking?

2024年6月19日(水)13時39分
ロバート・ザレツキー(米ヒューストン大学教授〔歴史学〕)

newsweekjp_20240619022428.jpg

国民連合のジョルダン・バルデラ党首(前列右)とマリーヌ・ルペン(同左) SERGE TENANIーHANS LUCASーREUTERS

その一方、マクロンの解散宣言で左派勢力に大同団結の機運が生まれたのも事実。左派は2022年の国民議会選挙に共闘組織「新人民環境社会連合」を結成して臨んだが、うまくいかなかった。

連合結成を呼びかけたのは極左政党「不服従のフランス(LFI)」を率いるジャンリュック・メランションだったが、どうにも彼の個性が強すぎて社会党や緑の党などの反発を招き、連合は内部崩壊した。

しかし今回、マクロンの大胆さに刺激を受けた左派の諸勢力は大胆に動いた。翌日の夜には、もう互いの間で意見の相違を調整し始めた。音頭を取ったのは、カリスマ政治家ラファエル・グリュックスマンを担いで欧州議会選で躍進した社会党だ。

その昔、1935年に極右勢力によるクーデター未遂を受けて左派が大同団結して結成した「フランス人民戦線」にちなんで、LFIと社会党、共産党、緑の党(現在はエコロジー党と呼ばれる)の指導者たちは「この国の人道主義者と労働組合、市民運動を代表する新人民戦線」の創設を発表した。

そして各選挙区で右派・極右に対抗する候補者を1人だけ擁立して共闘することに合意した。共同宣言によると、目的は「マクロンに代わる選択肢を設け、極右の人種差別主義者と闘うこと」にある。

一方、既存の右派政党は揺れている。これはマクロンの読みどおりかもしれない。11日の朝、共和党のエリック・シオティ党首は極右・国民連合の要請に応じて共闘する考えを表明した。すると保守本流の自覚と自負に燃える党内の有力者たちが激怒した。

そもそも、国民連合の政策要綱は共和党の掲げる伝統的な共和主義と相いれない。シオティ自身も、今年初めには「深いイデオロギー的相違」ゆえに国民連合との共闘はあり得ないと語っていた。

翌12日には党内有力者が集まり、党首の更迭を決議した(シオティ自身は党本部に閉じ籠もって辞任を拒んでいる)。この混乱に乗じて、ルペンの国民連合も与党の再生も共和党員に、自派へのくら替えを呼びかけている。

次に考えられるのは、マクロン自身が17年の大統領選で掲げた「私を選ぶか、混乱を選ぶか」という二者択一の思考法だ。マクロンは一貫して、ルペンと国民連合は混乱を体現するものだと説いてきた。ただし、これに脅威を感じたルペンは国民連合の路線を微妙に修正している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ワールド

サハリン2はエネルギー安保上重要、供給確保支障ない

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中