最新記事
難民支援

ウクライナ侵攻後、難民危機と闘う女性たちの「リアル」

NGOS NEED MORE FUNDING

2024年6月13日(木)15時50分
メンディ・マーシュ(NPO「ボイス」代表)、ローレン・メッシーナ(同ウクライナ危機対応地域マネジャー)

newsweekjp_20240612023752.jpg

ポーランド南部クラクフの倉庫で援助物資を箱詰めする(22年6月) BEATA ZAWRZELーNURPHOTO/GETTY IMAGES

IJSCによれば、援助対象の途上国を拠点とする現地NGOや市民団体には、人道援助資金の2%しか提供されていない。女性や少女がリーダーを務める団体への資金提供はさらに少ない。私たちの調査に回答した団体のうち、今年計画している活動を実施する資金が十分にあると答えたのは、わずか12%だった。

「最大の懸念は、ウクライナでジェンダーに基づく暴力関連のサービスを提供するウクライナ人主導の団体が今年末までになくなること」だと、マールティンカ財団の創設者ナスチャ・ポドロズニャは言う。

筆者らが調査した団体の4分の3近くは、もしリソースがあればジェンダーに基づく暴力の被害者向けサービスを拡大する意向を示した。モルドバのある団体は、「リソース不足のため(ジェンダーに基づく暴力に)効果的に対処できないことがよくある」と訴えた。リソースが提供されても遅すぎるケースもあり、そのため課題が陳腐化したり、被害者が引きこもり、希望を失い、対話に参加しなくなったりする。

国連自身の基準でも、ジェンダーに基づく暴力への対応は資金不足が続いている。この事態は回避できたはずだった。他の紛争や災害と違い、国連はロシアによる侵攻の脅威が高まった14年以来、ウクライナの地元団体との関係を強化していた。ウクライナの近隣諸国でも、活力ある女性のための運動が育っていた。

つまり、国際社会は現地の組織との関係を一気に飛躍させる絶好のチャンスに恵まれていたのだ。その時点で現地の女性運動や団体との関わりを優先し、意思決定プロセスへの積極的参加を促すべきだった。しかし、私たちが調査した女性の権利団体によれば、このチャンスはほとんど生かされていない。

危機にふさわしい対応を

「現地化」の約束にもかかわらず、女性主導の団体は今も蚊帳の外に置かれたままだ。ロシアの侵攻が引き起こした危機は終わっていない。数百万人が周辺地域で避難生活を続け、トラウマと喪失感を抱えたまま、基本的ニーズの確保に苦労している。戦争が終わった後はどうなるのかという疑問も、ウクライナ人にとって依然として大きな問題だ。

ロシアの侵攻開始前、ポポビチ率いるRCTVメモリアは年間300人以上の被害者を支援していた。侵攻後の昨年にはウクライナ難民だけでその10倍、3000人以上の支援を行った。日中は被害者にサービスを提供し、夜間は事務作業を行い、ボランティアを動員し、休暇も週末もなく働いた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、国際水域で深海採掘へ大統領令検討か 国連迂回で

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに最大5.98兆円を追

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中