最新記事
戦争犯罪

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発

2024年5月21日(火)10時41分
ロイター
国際刑事裁判所(ICC)

国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は20日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相のほか、イスラム組織ハマス幹部3人の逮捕状を請求したと発表した。2021年3月撮影(2024年 ロイター/Piroschka van de Wouw)

国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は20日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相のほか、イスラム組織ハマス幹部3人の逮捕状を請求したと発表した。

これに対し、ネタニヤフ首相本人は猛反発。米国や英国からも批判的な声が上がっている。

逮捕状を発行するに十分な証拠があるかどうかは、予審裁判部が今後判断する。

カーン氏は声明で、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑で「刑事責任を負う」と信じるに足る十分な根拠が得られたと指摘。「イスラエルは他の全ての国と同様に国民を守るために行動する権利があるが、こうした権利は国際人道法を順守する義務を免除するものではない」とし、イスラエルが行ったとされる人道に対する罪は「国家政策に基づくパレスチナ民間人に対する広範かつ組織的な攻撃」の一部との見解を示した。

その上で、イスラエルが食料、水、医薬品、エネルギー源などの「人間の生存に不可欠な物資」を民間人から組織的に奪っていたことを示す証拠が得られているとし、ネタニヤフ首相とガラント国防相は故意に多大な苦しみを引き起こし、戦争犯罪として殺人を犯したことに責任を負っているとした。

ICCはハマス最高指導者のハニヤ政治局長ら3人の逮捕状も請求。ハマス幹部のサミ・アブ・ズフリ氏は「被害者と加害者を同一視するものだ」と非難し、逮捕状請求の取り消しを要求した。

イスラエルのネタニヤフ首相は「ICC検察官が、民主的なイスラエルと大量殺りくを行うハマスとを比較したことに嫌悪感を抱く。イスラエル国民を虐殺し、レイプし、誘拐したハマスと、正義の戦争を戦っているイスラエル軍兵士を比較することなどできるだろうか」と激しく反発した。

その上で、逮捕状請求は不合理であり、イスラエル全体を標的にしたもので「新たな反ユダヤ主義」の姿だと批判した。

イスラエルのヘルツォグ大統領も、逮捕状請求は世界中の「テロリスト」の増長につながると非難。「テロリストと民主的に選ばれたイスラエル政府との間に類似性を引き出そうとするいかなる試み」も断じて容認できないと述べた。

米英もICCの行動を強く批判している。

 

バイデン米大統領は20日、逮捕状請求は「言語道断」だと非難した上で「検察官が何を言おうと、イスラエルとハマスの間には同等性など全くないということをはっきりさせておきたい。米国はイスラエルの安全保障について常にイスラエルを支持する」と述べた。

ブリンケン国務長官も同様の見解を示した上で、ICCの管轄権と逮捕状請求に疑問を投げかけた。また、人質奪還と停戦合意に向けた交渉が危うくなる可能性があるとした。

英国のスナク首相の報道官も、ICC検察官の決定は「戦闘の停止、人質の救出、人道援助の実施に寄与しない」と述べた。また、ICCには逮捕状を請求する権限がないとも語った。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中