最新記事
長距離ミサイル

ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程でクラスター弾搭載可能なATACMS

Ukraine's ATACMS Wreak Havoc Deep Behind Russia's Lines

2024年5月28日(火)18時49分
エリー・クック

弾道ミサイルの発射実験を行った北朝鮮に対して、韓国軍が発射したATACMS。いざとなれば北朝鮮の軍事施設を正確に攻撃できるという示威(2022年6月7

<弾薬不足で劣勢に立たされているウクライナ軍だが、アメリカの追加支援パッケージにも入っていたATACMSがロシアの軍事資産の攻撃・破壊に大活躍しているようだ>

ウクライナは、現在の前線よりも遥か先にあるロシアの標的――ロシア軍の部隊や防空システム、軍用機や艦船――を攻撃するために、新たに供与された兵器システムをフル回転で使用している。

【動画】追加支援でウクライナ軍が受け取るATACMS、ストームシャドウ、ハスキーの実力

ウクライナとロシアの情報筋、および公開情報分析OSINT(オープンソース・インテリジェンス)のアナリストらは、ウクライナがこの数週間にロシア軍関連施設に大きな打撃をもたらした攻撃について、アメリカから供与を受けた陸軍戦術ミサイル(ATACMS)を使用したものだと指摘している。

 

ATACMSは前線から遠く離れたところにあるロシアの重要資産を攻撃することができる長距離の強力な兵器として、ウクライナが以前から供与を強く要望していた。

ウクライナ軍は2023年10月にクラスター弾をこめたATACMSを初めて使用し、ウクライナ国内にあるロシア軍の軍事拠点2カ所を攻撃して数多くのヘリコプターを破壊した。また4月24日にはアメリカのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、ジョー・バイデン米大統領が2月の時点で「かなりの数のATACMS」をウクライナに供与することを承認していたと明らかにした。ATACMSは、米政府が3月12日に発表したウクライナへの3億ドルの追加支援パッケージにも盛り込まれており、4月下旬の時点で既にウクライナに届いていると述べた。

長射程ATACMSの威力をフル活用

ATACMSはそれまでのミサイルよりも射程距離が長く、ロシアの占領地域の奥深くまで攻撃できる能力がある。ロシア軍がウクライナ東部で進軍を続けるなか、ウクライナ軍は南部クリミアを中心に、前線から離れたロシア軍のジェット機や司令部などの標的に狙いを定めている。

西側の同盟諸国はウクライナに対して、ATACMSはロシア領内ではなく、ウクライナかロシアに奪われた領土でのみ使用するよう警告している。西側の武器でロシアを直接攻撃すると、戦争が他国も巻き込みエスカレートしかねないからだ。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は5月24日、ウクライナの国防当局者の発言を引用し、ウクライナ軍がクリミア半島南岸のアルシタ市にあるロシア軍の通信施設をATACMSで攻撃したと報じた。

クリミア半島への攻撃にはこれまでも何度かATACMSが使用されたとされている。ウォール・ストリート・ジャーナルはウクライナの当局者から得た情報として、ウクライナ軍が4月にクリミアにあるロシア空軍の基地をATACMSで攻撃し、ミサイル発射装置や先進防空システムのレーダーなどを破壊したと報じた。

インターネット上でも、ウクライナ軍がATACMSを使用してロシア占領下にあるクリミア半島セバストポリ近郊にあるベルベク飛行場を攻撃した後の様子を捉えたとされる衛星画像が広く共有されている。この画像からは、ウクライナ軍が複数の航空機を損傷または破壊するのに成功したことが伺える。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

仏製造業PMI、3月改定48.5に上昇 見通し厳し

ビジネス

欧州株STOXX600の予想引き下げ、米関税で=ゴ

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ワールド

ミャンマー地震の死者2719人と軍政トップ、「30
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中