最新記事
中国

低すぎる出生率で迷走...中国政府は「中絶禁止」に向かうのか

CHINA’S BABY BUST

2024年4月22日(月)10時31分
ジュリア・カーボナロ

そもそも中国が1人っ子政策を放棄して2人の子供を持てるようにした(後に3人まで拡大)16年以降、女性たちは雇用差別の対象だった。「2人か3人の子供を産む可能性がある女性を雇っておくのはコストがかかりすぎると、雇用主が考えたためだ。新しい政策は社会を再構築する代償を若い女性たちに押し付けているようなものだ」

人口減少は経済に悪影響を及ぼすというのが大方の見方だ。「中国の急速な経済成長は、健康で識字率の高い若年労働者が大量に存在したという幸運によって押し上げられた」と、王は言う。「彼らは地方から都市に移住して新しい生活を手に入れたいと願っていた。だが、そのプロセスはほぼ終わり、再現不可能だ」

中国は現在、貿易不振や国内消費の鈍化、不動産危機により深刻な景気後退に直面している。特に懸念されるのは将来の労働力不足に拍車をかける労働者の高齢化と低出生率だと、とグリーンハルは言う。

「中国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は1.09(22年)で、人口維持に必要な2.1に遠く及ばない。既に中国当局は高齢者の生活を支える担い手の問題を強く懸念している。1組の夫婦が1人しか子供を持たないとしたら、誰が老人の面倒を見るのか?」

「悪名高い1人っ子政策を撤廃した後も、予想外の急速な少子化が進んでいる現状を、中国政府は強く懸念している」と、王も指摘する。「だが、少子化はこの国の経済・社会構造に深く根差した現象であり、出生率の低下を食い止める手っ取り早い処方箋はない」

グリーンハルによれば、中国政府がこの問題に取り組み始めたのは13年。夫婦のどちらかが1人っ子の場合に限り2人目を産めるようにして、1人っ子政策を初めて微調整した。「15年には制限なしの『2人っ子政策』を発表し、16年1月1日から全てのカップルが2人の子供を持てるようにした」と言う。

「新たな国勢調査のデータで出生率の上昇が一時的なものであることが判明すると、21年8月には再び政策を変更して『全てのカップルが3人目を産める』こととし、出生率向上のために極めて多数かつ多様な支援措置を導入。同じ21年には、新しい政策のニーズに合わせて人口・出産計画法も改正された」

「女が家庭を守る」伝統に回帰

中国はまた、習近平(シー・チンピン)国家主席が言う「新時代の結婚・出産文化」を育成するため、「若い女性が家庭に戻り、フルタイムで出産・育児と年長者の世話をするよう奨励している」と、グリーンハルは言う。「(今の中国は)女性が家庭を管理し、男性が稼ぐ伝統的な国家にかなり近いものをつくろうとしている」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中