「悪は、善人が行動しないだけで勝利する」ロシア反体制派ナワリヌイの遺言
Defiant to the End
──最大の悲しみは?
多くの人がものを考えようとしないこと、基本的な因果関係も理解していないこと。「汚職は私の生活には関係ない」とか、「権力の座にいる連中が盗みを働いたが、人が代わっても同じことだろう」などと誰かが言うのを聞くたびに悲しくなる。
何億年もの進化によって、最も素晴らしい頭脳を与えられているのに、この人はなぜそれを使わないのだろう、と思ってしまう。
──人間と人類に最大の悪をもたらすものは?
「悪は、善人が行動しないだけで勝利する」──誰かの言葉だが、驚くほど的を射ている。中立という偽善、政治的無関心、利害対立、隠れた怠惰、卑劣こそが、人類の歴史を通じて、組織化した悪党集団に何百万もの人々の支配を許してきた主な原因といえる。
──人類に最大の利益をもたらすのは?
「善」対「中立」の戦いに関わること。
──今のあなたにとってロシアとは?
私が理解できる人々が住む、くつろげる場所。私は国と政府を切り離して考えられるので、激動のこの時代においても、ロシアへの愛は変わらない。
──あなたに一番大きな影響を与えた芸術は何か?
私は文学が好きで、少しは理解しているつもりだ。映画も音楽も建築も好きだが、それほど詳しくはない。「敬意を持っている」と言えるだけだ。
文学はあらゆる芸術の中で最も強い影響力を持つ。なぜなら、文学はわれわれ自身の想像力を通じて訴えてくるからだ。それより強い影響があるものなど考えられない。
──好きな格率(行動原則)は?
単に好きなだけではない。私の好きな格率には「格率」という言葉が含まれている。「汝(なんじ)の意志の格率が常に同時に普遍的立法の原理に妥当し得るように行為せよ」。ドイツの哲学者カントの道徳法則の定式化の1つだ。
聖書の黄金律「汝の欲するところを人に施せ」によく似ているが、聖書のほうがまだ守りやすい。カントのほうは守る責任が重いと思う。だから私はこれを選ぶ。これらの法則に従うのは非常に難しいが、従うよう努力すべきだ。
──これまで読んだ本で最も重要な1冊は?
『ハックルベリー・フィンの冒険』だ。あの本を読んだのは、10歳か11歳くらいの頃だったと思うが、本というものは退屈だが役に立つだけでなく、読みだしたら止まらなくなって、ページをめくるたびに笑える場合もあるのだと気付いた。それで本を読むようになった。本を読まない人たちは気の毒だと思う。
──ロールモデルはいるか。
昔も今も優れた人々は大勢いる──勇敢で、偉大で、知的な人々だ。だからたった1人だけ選ぶのはもったいない。