ISが犯行声明を出しているのに「ウクライナの仕業」とするロシアに「既視感がある」
事件現場のコンサート会場では火災も発生(3月22日) MAXIM SHEMETOVーREUTERS
<モスクワ銃乱射はISが犯行声明を出したが、ロシアとウクライナは互いを非難。プーチン台頭のきっかけとなった1999年の高層アパート連続爆破事件に構図が似ている?>
100人以上が死亡、100人以上が負傷したモスクワ郊外での銃乱射事件について、ウクライナ情報機関はロシアのプーチン大統領が黒幕だと主張したが、その後過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。
ロシア国営RIAノーボスチ通信の第一報によると、モスクワ州西部の大規模なコンサート会場「クロッカスシティホール」で3月22日、数人の銃撃犯が発砲。少なくとも60人が死亡したと報じられた。ロシア連邦保安局(FSB)と政府高官は「テロ攻撃」と呼んで非難した。
ISは通信アプリ「テレグラム」に投稿した声明で犯行を認め、キリスト教徒を標的にしたと述べた。APの取材に応じた米情報当局者は、米政府はアフガニスタンのIS支部による攻撃計画があることを事前に知り、情報をロシア当局者に伝えていたと語った。
だがウクライナはその前に、プーチン政権の自作自演説を主張していた。
「モスクワのテロ攻撃は、プーチンの意を受けたロシア特殊部隊による計画的で意図的な挑発」だと、ウクライナ国防情報局(DIU)は22日のX(旧ツイッター)への投稿で述べた。「その目的は、ウクライナへの攻撃強化とロシアの総動員体制を正当化することだ」
DIUのアンドリー・ユーソフ代表はウクライナのオンライン紙ウクラインスカ・プラウダにこう語った。「自国民への犯罪行為でキャリアをスタートさせたクレムリンの暴君は、同じ方法でキャリアを終えようとしている」
一方、ロシア国家安全保障会議のメドベージェフ副議長はテレグラムへの投稿で、ウクライナが攻撃の背後にいる可能性を示唆した。「ウクライナ政権のテロリスト(の犯行)が立証されれば、彼ら全員を見つけ出し、テロリストとして容赦なく壊滅しなくてはならない」
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー調査官は22日、「ウクライナやウクライナ人が関与した兆候は現時点でない」と説明。
これに対し、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は「米当局者は何を根拠に潔白だと結論付けるのか」とロイターに語り、この攻撃に関するいかなる情報もロシア側に提供すべきだと強調した。
「ロシアの『偽旗作戦』だとか、ウクライナの陰謀だとか、噂は飛び交っているが、今のところ確かな証拠はない」と、米シンクタンク、ジオポリティカル・フューチャーズのアナリスト、エカテリーナ・ゾロトワは本誌への電子メールで指摘した。
「いずれにせよ戦時中の今、ロシア政府は弱腰になることはおろか、弱気を見せる余裕もない」