最新記事
労働組合

バイデン政権のもとで息を吹き返すアメリカの「労働運動」...国民の67%が「組合を支持」する理由とは?

THE UNION FIGHT

2024年3月23日(土)13時40分
ダニエル・ブッシュ(ホワイトハウス担当)

それが瓦解し始めたのは70年代。国際競争の激化に直面した米企業は安価な労働力を求めて生産拠点を北東部・中西部から南部や国外に移転。反組合の保守派が組合を攻撃するようになり、ロナルド・レーガン大統領は81年、職場復帰命令を無視してストを断行した航空管制官を全員解雇した。

79年にはUAWがビッグ3との協約改定交渉では史上初めて大幅な譲歩をするなど、組合の力には既に陰りが見えていたが、レーガンが1万1000人を超える組合労働者を解雇したことは「象徴的な転機」だったと、労働問題に詳しいニューヨーク市立大学のルース・ミルクマン教授は言う。「政界から組合への攻撃開始の合図だった」

逆風がかえって功を奏す?

94年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)は、ニューディール型の古い労働運動にとどめを刺した。専門家によれば、NAFTA発効後、アメリカでは労働力を国外に移転しやすい部門で推計60万~100万人の雇用が喪失。特に製造業でグローバル化とレーガン時代が招いた工場労働者の減少が加速している。

だが小売り、医療、サービス、接客などアウトソーシングが難しい部門では逆に組合結成を促進。サービス従業員国際組合(SEIU)を筆頭に、組合は拡大し新たな力を手にした。

「組合は成長中の部門で組合結成を勝ち取るのに有利な立場だった」とSEIUの政務理事を務めたパトレシア・カンポスメディナは言う。「一方、UAWや鉄鋼業や建設業の組合は相変わらず、政府が製造業の雇用を国外に移すのを止めることで頭がいっぱいだった」

以来、パワーシフトは続いている。米労働省の最新のデータによれば、組合員の比率の男女差は83年の10%から22年には1%に縮小。現在は主に非白人労働者の加入が増えている。リベラル系シンクタンクの経済政策研究所の分析によると22年の全米の組合労働者は20万人増加し、全員が非白人だったという。

大勢の若者が組合に加入したり興味を示したりしていることも変化に影響していると、専門家は指摘する。AFL-CIOの調査の結果、30歳未満のアメリカ人の約9割が組合に好意的だった。雇用を守るという組合の約束は、特に07~09年の金融危機後の大不況とコロナ禍の中で成人した若い世代を引き付けていると、ミルクマンは言う。「若者の大志と労働市場の厳しい現実にはギャップがあり、それが新たな労働運動に拍車をかけている」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中