バイデン政権のもとで息を吹き返すアメリカの「労働運動」...国民の67%が「組合を支持」する理由とは?
THE UNION FIGHT
それが瓦解し始めたのは70年代。国際競争の激化に直面した米企業は安価な労働力を求めて生産拠点を北東部・中西部から南部や国外に移転。反組合の保守派が組合を攻撃するようになり、ロナルド・レーガン大統領は81年、職場復帰命令を無視してストを断行した航空管制官を全員解雇した。
79年にはUAWがビッグ3との協約改定交渉では史上初めて大幅な譲歩をするなど、組合の力には既に陰りが見えていたが、レーガンが1万1000人を超える組合労働者を解雇したことは「象徴的な転機」だったと、労働問題に詳しいニューヨーク市立大学のルース・ミルクマン教授は言う。「政界から組合への攻撃開始の合図だった」
逆風がかえって功を奏す?
94年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)は、ニューディール型の古い労働運動にとどめを刺した。専門家によれば、NAFTA発効後、アメリカでは労働力を国外に移転しやすい部門で推計60万~100万人の雇用が喪失。特に製造業でグローバル化とレーガン時代が招いた工場労働者の減少が加速している。
だが小売り、医療、サービス、接客などアウトソーシングが難しい部門では逆に組合結成を促進。サービス従業員国際組合(SEIU)を筆頭に、組合は拡大し新たな力を手にした。
「組合は成長中の部門で組合結成を勝ち取るのに有利な立場だった」とSEIUの政務理事を務めたパトレシア・カンポスメディナは言う。「一方、UAWや鉄鋼業や建設業の組合は相変わらず、政府が製造業の雇用を国外に移すのを止めることで頭がいっぱいだった」
以来、パワーシフトは続いている。米労働省の最新のデータによれば、組合員の比率の男女差は83年の10%から22年には1%に縮小。現在は主に非白人労働者の加入が増えている。リベラル系シンクタンクの経済政策研究所の分析によると22年の全米の組合労働者は20万人増加し、全員が非白人だったという。
大勢の若者が組合に加入したり興味を示したりしていることも変化に影響していると、専門家は指摘する。AFL-CIOの調査の結果、30歳未満のアメリカ人の約9割が組合に好意的だった。雇用を守るという組合の約束は、特に07~09年の金融危機後の大不況とコロナ禍の中で成人した若い世代を引き付けていると、ミルクマンは言う。「若者の大志と労働市場の厳しい現実にはギャップがあり、それが新たな労働運動に拍車をかけている」